世界的にみて、この30年余り株式投資がずいぶんと変質してきている。 一言でいえば、投資目線の短視野化とインデックス連動化である。 5年10年の時間軸で企業の利益成長を期待する株式投資本来の姿が、信じられないほどの退潮を見せている。
投資目線の短視野化もインデックス連動化も、年金をはじめとした機関投資家化現象の進展が背景にある。 年金は大事なお金だから毎年きちんきちんと運用状況や成績をチェックしましょうとなって、気が付いたら世界中の運用会社が1年毎の運用成績にしのぎを削るようになってしまった。
それが高じて、企業の四半期決算に投資家やマーケットが一喜一憂する姿、つまり株式投資のディーリング化が常態のようになってしまっている。 そんな機関投資家が大株主でもあるから、企業にとってはたまらない。 まともな長期戦略を打ち出そうにも、目先の利益状況によっては経営に NO を突きつけてくる。
インデックス連動化とは、機関投資家が日経平均などインデックス先物を売り買いするをもって株式投資とする傾向を強めている現象をいう。 個別株をていねいにリサーチしてポートフォリオを構築するより、はるかに手軽かつ低コストで日本株投資になるという理由で急速に普及したもの。
機関投資家の巨額資金がインデックスの先物にドドッと群がれば、平均株価は上でも下でも大きく振れる。 それにつられて個別株は木の葉のように舞い上がったり、吹き散らされてしまう。
めんどうなことに、機関投資家は景気指標や金利動向をはじめ世界のホットニュースに対し、過剰と思えるほど敏感に反応する。 それが、インデックス先物の値動きに跳ね返るわけだ。 それも、巨額の資金で買い群がったり、売り逃げに殺到したりする。 個別企業の経営状況は何も変わっていないというのにだ。
残念ながら、これが株式市場の現実である。 米国やヨーロッパにはまだ一部の富裕層など、長期の株式投資にこだわる運用会社に資金を預ける投資家も存在するから救われる。 しかし日本には、われわれなどほんの少数しかいない。
この現実から、一体なにが生まれるというのか? 機関投資家をはじめとする株式投資の短視野化とインデックス先物主体のマネーゲームで、個々の企業の株価形成を蹂躙しまくっている。 これでは、まともな企業経営などできやしないし、株価形成が発する情報価値をないがしろにして健全な経済活動など望むべくもない。
そこで、以前から提唱しているのが、生活者投資家という新しい概念である。 われわれ一般生活者が身の回りの企業で、絶対になくなっては困ると思えるところを応援すべく株主になるのだ。 応援するという以上は、株価が安い時ほど積極的に株を買って、より熱く応援メッセージを送る。 株価が高くなってくれば、一時的に応援をマーケットに任すべく、保有株を売り上がっていく。 利益確定の意味もあるが、次の応援買いのために資金をつくっておくためでもある。
そういった応援投資は、機関投資家の短期指向投資とは別次元であり、先物に振り回されることもない。 いつでもどんな時でも、この企業と長期視野で一緒に歩んでいこうという強いメッセージを、マーケットを通して発信することになる。
企業にとっては年金など機関投資家などより、はるかにありがたい株主の登場となる。 なにしろ、生活者投資家は消費者としてビジネスをサポートしてくれ、株価が安い時ほど応援買いしてくれる存在なのだ。 われわれ一般生活者と企業とで、まったく新しい価値関係を築いていこうではないか。