直販投信のもどかしい挑戦

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 最近は個人が株式投資に動き出そうと敏感になっている。 また、そういった報道が頻繁になされるにつれて、さらに人々の投資意欲を煽ることになる。 また、預貯金に眠らせたままにしている個人マネーをして、 ”自分も投資しなくては” に追い立てる展開となっている。

 このような雰囲気は、営業力を持った証券会社や銀行にとっては願ってもないチャンス。 既存の投資家顧客のみならず、広い裾野の潜在的な投資家層の間で、株価上昇の波に乗り遅れたくないという、焦りのような気持ちが高まっているのだ。 いってみれば、扉を開けて営業を待ってくれている。

 こういった時は、話題が日本株投資から始まって投資全般に及ぶのも、よくある話。 たとえば、株価上昇の横で海外投資が円安もあって説得力を持ってきた。 営業体からみれば、日本株セールスのついでに海外での運用商品まで幅広く営業しない理由はない。

 とりわけ投信販売は手数料率が高いから、株式営業よりずっと稼げる。 それもあってか、海外運用物の投信がやたら売れているし、その結果として円安の流れを強める好循環で、ますます営業体の士気を高めている。

 稼げる時には、”あれこれ言わず、稼げるだけ稼いでおけ” が、手数料ビジネスの鉄則である。 別に、日本株や株式投信に限定する必要はない。 投資したいといっている顧客に、あれもこれもと自社の販売商品を紹介して、手数料収入を最大化させる。 そのための販売商品の品ぞろえである。

 ひるがえって、われわれ直販の投信はといえば、そういった攻めの営業とは無縁である。 セミナーやレポートなどを通して、長期投資の大事さを訴えるだけだから、投信の販売が絶好調という雰囲気にはない。 直販投信の成績は悪くないのに、営業力を持ったところの投信販売がぐいぐいと伸びている横で、直販投資への資金流入は実に控えめである。

 5か月前までの低迷相場では、声を枯らして買い仕込みを訴えてきた。 営業力を持ったところは押しなべてくしゅんとなっていた中で、直販投信は地道に投資家顧客を広げていた。 ところが、相場が上昇に転じてからというものは、営業体がこれでもかこれでもかと攻めているのに、こちらは何の手も打てない状況下にある。

 商売という観点からは、営業力を持ったところがこのチャンスに攻めて攻めまくるのが正解である。 ただし、それと運用成績とは別である。 投資運用の観点からは、やはり皆が売っているような時に、丁寧な買い仕込みをしておく。 そして、みなが買い群がってくるのをじっくりと待つのが正解。

 どちらが投資家顧客にプラスとなるかは、考えるまでもないこと。 そうはいえ、”投資家顧客と一緒に” という価値観は後にならなければ分かってもらえないのが、本格的な長期投資のもどかしいところである。 

 ともあれ、できるだけ多くの潜在的な投資家に本物の長期投資を知ってもらいたいものだ。 高い手数料を払ってくたびれ儲けとなるのではなく、自分のお金が経済や社会の活性化に貢献してくれて、なおかつ大きく育って戻ってくる姿を実感してくれるといいのだがね。 

 まあ、地道に頑張っていくとしよう。