駄々っ子のように催促するばかりの投資家たち

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 これは世界的な現象だが、本格派の長期投資家がずいぶんと減ってしまった。 42年にわたって世界のマーケットで運用の仕事に携わってきたが、その間ずっと長期投資の廃れぶりを目撃してはイライラ感を高めているわけだ。

 一番の要因は、70年代後半からの年金の運用本格化に伴う機関化現象の進展である。 それまでは年金運用といえば10年20年の時間軸で取り組むのが当たり前だった。 まさに年金は長期運用の晴れ舞台であった。

 ところが、先進国中心に年金制度の整備が進み、積み立てが急拡大していくにつれて、”年金は大事な資金だから10年20年たって運用が下手だったでは手遅れだ、毎年運用状況から成績までしっかりチェックしなければならない” という考えが主流になっていった。

 それと同時に、膨れ上がる一途の年金マネーは世界の運用会社にとっては、巨大なビジネスチャンスとなっていった。 年金運用のマーケティング競争が激化していくにつれ、ますます短期の運用成績向上に皆がしのぎを削るようになり、長期投資はどんどん片隅に追いやられるようになった。

 世界の年金という巨大資金が短期の運用成績を追い求めれば、運用担当者たちが短期のディーリング志向を強めるのは当然だし、マーケットでの価格形成もどんどん短期刹那的なものになっていくのは避けられない。 そういった流れに乗って急激に存在感を高めたのがヘッジファンドである。

 また、コンピュータや IT 技術の急速な発展も、世界の運用ビジネスが短期志向あるいはディーリング指向を強めるのを強力にバックアップした。 1秒間に1000回の売買なんて、もうコンピュータなかりせばの世界である。

 たしかに世界の運用ビジネスは毎年の成績を追いかける資金運用が主流になってしまったが、それがどれだけの富をもたらしているかを、そろそろ真剣に検証すべきだろう。 あえて言えば、富どころか弊害がひどくなっている。

 たとえば、世界の年金はじめ機関投資家の巨大マネーがバーナンキ FRB 議長の発言に瞬時対応しようと、そればっかりに集中している。 皆が同時に同方向に動くから、マーケットの価格形成もそれだけ単純かつ刹那的になってしまう。 その価格情報が、まわりまわって FRB の政策決定に影響を及ぼすのだ。 あまりに無責任で恐ろしいことだと思えないか。

 あるいは、巨額の資金を背景にした短期指向の運用者たちが駄々っ子のように次の政策をおねだりするのも、おかしな傾向である。 まともな長期投資家ならば、先へ先へと読み込んで、さっさと行動するだけのこと。 ところが、最近の運用者たちは政策の催促をしては相場に乗ることしか考えていない。

 自分で考えて、自分の意志と判断で行動する投資家が増えてくれないことには、マーケットの価格形成がどうしても薄っぺらになってしまう。 刹那的で根無し草のような価格情報に経済活動が振り回されていては、まともな富の増殖なんてありえない。 みなさんも一度じっくり考えてみてください。