日本経済に長期低迷を強いてきた要因の一つとして、円高をいうエコノミストや学者は多い。 たしかに円高の進行は、世界比較で日本の労働賃金レベルがどんどん上がっていくことを意味し、国際競争力という点ではマイナスである。
また、円高で海外製品の輸入が増えることになり、それは国内の雇用を奪うことにもなる。 逆に、日本製品の輸出には不利となり、輸出産業を中心に円高不況が襲う。
そういった理由で、なんとしても円高傾向を阻止し、円安に持っていかなければならない。 このままでは、日本経済はじり貧から逃れられないと主張する声が強かった。
ところが、この2年ちょっとで1ドル80円前後だったのが、120円へ大幅な円安となった。 当初は J カーブ効果で輸出は伸びないが、そのうち円安効果は出てくると期待されたものの、一向に輸出は大幅増加となってこない。 むしろ、円安で輸入代金の支払いは急増している。
いま世界を見渡すに、為替安政策が景気促進につながるとする傾向は強い。 中国は元をできるだけ低く抑えておきたいし、日本は円安政策に舵を切ったし、 EU もユーロ安を指向している。 新興国も国内のインフレ圧力とは闘いながらも、自国の通貨安で輸出を伸ばしたがっている。
さてさて、通貨安政策がどれほどの効果があるものだろうか。 まだ経済規模の小さい発展途上国や新興国ならいざ知らず、先進国や成熟経済においてやみくもな為替管理は、むしろ経済のダイナミズムを阻害するおそれがあるのでは。
早い話、学者や政治家が国内景気の浮上には通貨安が望ましいとする横で、グローバル企業の為替離れがどんどん進んでいる。 世界各国でビジネスを展開する企業にとっては、為替変動を相殺させながら事業拡大を図るのは、もう当たり前のこと。
一国が通貨安にこだわればこだわるほど、無理強いの歪みはいずれマーケットで調整されようが、これまたグローバル企業では長期の投資戦略に織り込み済みである。
そもそも、一国の通貨が高くなっているのは国力の強さを示しているわけで、歓迎こそすれ反対の理由はない。 好例が、スイスである。 日本以上にスイスフラン高が進んだが、スイス企業のグローバル化と国内の雇用促進は並行的に進んでいる。 またし、スイス国内の観光産業もスイスフラン高を屁とも思っていない。
政治は国内の景気や雇用に引きずられて、為替変動に神経をとがらすあまり、しばしば経済合理性に欠けた判断をしがちである。 そして、どこかで痛烈なマーケットの洗礼を浴びる。
われわれ長期投資家は企業と一緒に世界経済全体を視野に、合理的な行動に徹しよう。 世界人口は毎日18万5000人ずつ増えていて、拡大の一途をたどっている。 為替変動や原油安といった一時的な要因に振り回されることなく、企業を応援していこう。