われわれ長期投資家は、いつも10年くらい先までをまとめて考え、その間に起こり得るリスク要因はすべて投資シナリオから外してしまうようにしている。
大きな価格下落を食らいそうなリスク要因をきれいさっぱりと削ぎ落とした上で、思う存分に投資リスクを取りに行くわけだ。 この場合の投資リスクとは、世の中が怖がって手を出せないような投資チャンスに真っ正面からぶつかっていくことを意味する。
皆が逃げたがるような時に平気な顔して買いを入れられるのも、ここから10年ぐらいの間に遭遇しそうな損失リスクを前もって排除しているからのこと。
この先10年でみて最大のリスク要因は、金利上昇だろう。 日本は1992年の9月から、世界とりわけ先進国では2009年から、超低金利政策に踏み切って今日に至っている。 日本は不動産バブル、世界は金融バブルの崩壊を受けての超低金利政策である。
現時点では、政策金利をゼロにするとか異次元の資金供給とかの金融緩和政策は、金融マーケットのみならず経済の現場でも歓迎されている。 それが故に、日本の国債10年物で0.7%、米国では2%後半といった低利回りでも、投資家ニーズは高水準を維持しているわけだ。
しかしだ、金利をゼロ状態あるいは超低金利に抑え込んでいては、経済の健全な発展拡大など望めない。 金融は経済活動の潤滑油とか血液といわれるが、金利は潤滑油や血液の温度である。 潤滑油にしても血液にしても、一定幅の温度が保たれてこそ本来の機能を存分に発揮できる。
見方を変えると、バブル崩壊の後始末が進み経済活動が活発化するにつれて、金利が上昇に転じるのは当たり前のこと。 米国の長期金利でいえば5%台、日本なら4%前後が居心地の良い水準である。
米国では昨年の5月後半から、超金融緩和政策を是正すべく出口戦略を模索し始めている。 といっても、ようやく上昇に転じてきた住宅価格や株価を叩き潰しては、なんのための超低金利政策であり未曾有の資金供給だったのかとなってしまう。 慎重に出口戦略を進めることになろう。
そうなると、米国の長期債利回りがいつまでも3%を割った水準にとどまっているはずがない。 いずれは、4%5%と上昇に転じていこう。 その分だけ米国債価格は値下がりしよう。
日本では、官民ともども金利上昇の想定など遠い先の話と信じて疑わない。 しかし、アベノミクスや黒田日銀総裁による2%インフレ目標が成果を上げだせば、金利は上昇するに決まっている。 もちろん国債価格の値下がりは避けられない。
いずれ日米とも金利上昇局面を迎えることになろうが、それは経済活動が正常化に向かう過程で発生する、ごく自然な現象である。 ただし、ここまで長期にわたって強力に超低金利政策を推し進めてきたから、その反動で振り子の振れ幅が想像以上に大きくなることもあり得る。
このあたりの読みは、誰にだってできる。 それでも、現時点では遠い先のことと受け取られていて、機関投資家はじめ多くの金融機関は国債保有に安穏としている。
いずれ金利は上昇するだろうとする経済では当たり前の合理的な考えと、機関投資家はじめ多くの人々がとっている行動とのギャップ、それこそが今後10年ぐらいの間に起こりうる最大のリスク要因である。
マーケットはいつでも合理的な水準と現実との歪みを狙っている。 いつ暴れ出すかは神のみぞ知るところだが、歪みの幅が大きければ大きいほど、またその間の時間が長ければ長いほど、手の付けられない暴れ方をする。
そういったリスク要因は一刻も早く削ぎ落としておこう。