昨日の続きともなるが、成熟経済において長期投資がどれほど大きな役割を果たすかについて、今日は書いてみよう。 まだ経済学説にもなっていないところだが、いずれは実績を伴って重きをなす考え方である。
第1が、個人や家計が積極的に長期投資をすることで、経済の現場にお金がまわっていく、つまり消費と同じ経済拡大効果が発生する。 経済は動いているお金の量とスピードの掛け算で規模が決まるから、消費でも長期投資でもお金をまわせばまわすほど成長率は高まる。
経済が成熟化するということは、国民の多くが生活に必要なものをほとんど手に入れ、もうこれといって買いたいものがなくなってきた状態を指す。 とりわけ耐久消費財は買い替え需要が中心となるから、個人消費全体の支出が鈍る。 それは経済の現場に流れ込むお金の縮小を招き、経済成長率は落ちていくことを意味する。
そこを補うのが長期投資である。 経済成長段階における活発な耐久財消費に代わって、成熟経済では長期投資が経済活動拡大のブースターとなる。
第2が、長期投資は生活者にとって欠かせない企業を応援しようとするが、その取捨選択が企業経営に大きな影響を及ぼす。 生活者として毎日の消費で企業を選ぶが、まったく同じ観点で応援投資するから、企業にとっては2重の意味でサポーターとなる。
生活者投資家は消費者であり株主でもあるのだ。 生活者投資家の支持なくんば、企業経営は成り立たないという認識が、これからどんどん高まっていく。
第3が、長期投資は生活者にとって大事な企業の株価が安い時ほど、積極果敢に応援の買いを入れる。 株価暴落時や不況時ほど長期投資家の応援買いが入ってくるが、それが経済全体にとってはリスクマネーの供給という。
そういったお金の流れこそ直接金融の根幹をなすもので、日本経済に最も欠けている部分である。 間接金融主体でやってきた日本経済では、銀行の貸し渋りで企業活動は落ち込みデフレを招いた。 個人の長期投資が定着してくれば、不況時ほど企業の応援投資を通して経済の現場に資金を供給することになり、景気回復を早めることになる。
第4に、応援企業の株価が暴落相場や不況で安い時に買い仕込み、景気回復などで株価が大きく上昇してくるにつれ少しずつ売り上がっていくのが長期投資である。 その繰り返しをリズムよく続けていれば、再投資による複利の雪だるま効果で大きな投資リターンが積み上がってくる。
複利で雪だるまのように膨れ上がっていく資産が、もうこのくらいあれば安心だという水準にまで到達すると、ファイナンシャルインデペンデンス(お金にとらわれない状態)を達成する。 そこから先は、どんどん膨れ上がる資産を自分のためでもいいし、世の中のためでもいいが積極的につかうというステージに入っていく。
長期投資で殖えたお金をつかうことで、もう一度お金を経済の現場にまわしてやることになる。 成熟経済はさらに拡大するわけで、この循環を日本で築き上げれば、欧米先進国がなしえていいない成熟経済の成長モデルを確立することになる。
第5に、長期投資で殖え続けるお金を文化・教育・芸術・スポーツ・技術開発・ NPO ・ボランティアなどにつかえばつかうほど、その方面で新しい雇用を創出できる。 成熟経済におけるサービス産業化をどんどん推進することになる。
まだいくつかあるが、ここまで書けばアベノミクスの成長戦略などなくても、日本経済はいくらでも元気になれると思えないか。 幸いなることに、個人や家計は日本経済の1.7倍もの預貯金マネーを保有している。 その10%でも長期投資にまわすことで、上に書いた図式を現実のものにしてしまえるのだ。
幸か不幸か年金の当てにならない度合いがどんどん高まっている。 個人や家計が長期投資に踏み込んでくるのは、もう否応なしである。 それが、冒頭に書いた実績でもって長期投資が成熟経済の日本を元気一杯にさせるということだ。