先週末に債券帝王といわれたビルグロス氏がピムコを辞任した。 グロス氏は抜群の債券運用で、ピムコを世界最大の債券運用会社に育て上げた功労者である。
そのグロス氏は過去2年あまりというもの、得意の債券運用で成績低迷に苦しんでいた。 彼の当初の投資判断では、そろそろ債券相場は天井だとしたことだ。 そして、債券投資のポジションを大幅に減らした。
これからは株式投資が主体の運用だという方向に大きく舵を切ったものの、彼の思惑通りにはいかず債券相場は相変わらず強かった。
そこで、彼はふたたび債券投資にシフトしたが、右往左往した分だけ運用成績で他社と差がついてしまった。 この超低金利下では、債券投資の利ザヤは薄く、一度生じた成績差を埋めるのは至難の業である。
一方、株式市場は大きく上伸したが、惜しむらくは彼が債券投資に戻った後のこと。 ドタバタした結果の成績低迷で、今回の辞任に追い込まれたと思われる。
残念に思うのは、グロス氏が当初の投資判断を貫徹できなかったことだ。 ピムコの運用責任者ということで、思惑が外れたままで1年2年の時間経過は許されなかったのだろう。
これは、機関投資家共有の悩ましいところである。 相場を先読みした行動が裏目に出て、競争他社との成績差が1年も続くと、運用資金を預けてくれている年金などがギャンギャンに騒ぎ出す。
お宅の運用はどうなっているのだと、成績低迷の理由を求めて吊るし上げを食う。 その結果、投資家顧客が納得する運用ポートフォリオ、つまり今の相場動向を追い求める目先張りの資金運用に戻らざるを得なくなる。
かのグロス氏をしても、機関投資家運用の限界を乗り越えられなかったわけだ。 われわれ長期投資家からすれば、2年はおろか3年でも5年でも平気で相場の波が到来するのを待って、大きな投資成果を手にするのが普通である。
現に、グロス氏もいま現在まで債券売りの株式買い方針を貫いていたならば、債券に次いで株式でも大成功を収めたと彼の評価は一層上がったはず。 なにしろ、債券投資では1%前後の成績追いかけに躍起となっている横で、株式市場は10%ほどの値上がりをしているのだから。
のちの歴史が証明することになろうが、彼の辞任が債券相場終焉の象徴となるのではなかろうか。 債券帝王が成績不振を問われて身を引いていく、その横で30年越の債券相場は静かに幕引きに入っていく。
これだけ超低利回りで、もはや投資収益獲得の幅がそれほど残っていない債券市場から、より有利な投資対象を求めだすのは時間の問題である。 それが、債券から株式への世界的な資金シフト、つまりグレートローテーションの始まりである。