成熟経済でのマイホーム観

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 日本の空家比率が13.5%で、その数も820万戸に達したという統計が発表された。 この長期投資家日記でも時折コメントしてきたのが前回5年前の統計で、13.1%の755万戸であった。 空き家が着実に増えているわけだ。

 その横で、マイホームへの需要は相変わらず高い。東京など大都市はもちろんのこと地方都市でも、新築マンションを建設するクレーンがあちこちで林立している。

 果たして、このまま新築住宅が増えていったらどうなるのだろうか? まあ、10年もしないうちに、遅くとも20年後にはその答えも出ていよう。

 新聞報道では税制のメリットもあって、古い廃屋がそのまま放置されているケースも多いとのこと。 更地にすると税率が4倍とか6倍に跳ね上がるから、無人の建物をそのままにしておくというわけだ。

 そういった税制の問題は置いても、空き家の増加は人口の減少傾向からも避けられない。 戦後から高度成長期まで日本中で繰り広げられた家が足りない大合唱は、もはや遠い昔の物語となっているのだ。

 かつての土地持ち長者の神話と、大家になれば働らかなくても食っていけるといった財産観は、いずれ廃れていくことになろう。 もっとも、ニューヨークのマンハッタン地区のように、日本でも一部のどんな時代でも利用ニーズが高まっていくような立地は別ではあるが。

 そのうち日本全体では住宅の供給過剰で、貸主よりも借り家人の方が有利となっていくのは間違いない。 もうひとつ、ずっと超低金利が続いている中で、住宅ローン利用者は増え続けてきた。 どこかで金利が上昇に転じたら、住宅ローン破産が深刻な社会問題となる事態も想定しておこう。

 国は相変わらず住宅取得を政策の柱にしているが、移民とかで人口の増加を図らない限り、日本の住宅供給過剰は深刻化する一途である。 いろいろな意見はあろうが、日本人のマイホーム観は成熟社会に沿ったものになっていくのは避けられまい。

 どういうことかというと、先ず第一に若いうちから猫も杓子もマイホームを手に入れようとする、きわめて日本的な住宅取得慣行は急速に細くなっていく。

 それよりも、現役の間は家族構成の変化に応じて家を借り換えていって、引退後に小さなマイホームを手に入れることになろう。 その方が、現役の間は大きな住宅ローンを支払い続け、引退後には古くなった家の修理費に追われるよりも、ずっと生活の安定度が高まる。

 一方、中高年齢層で収入基盤に余裕のある人々は、リフォームをはじめ住宅投資に力を入れる。 マイホームを耐震基準に沿った省エネタイプのものにしていくなど、生活の質を高める投資は成熟経済ならではのものである。

 若い人たちのマイホーム取得熱が下がると、それだけ景気にマイナスとなる? 違う、マイホームを手にする時に手放す頭金はじめ、毎月の住宅ローン支払い分を長期投資にまわすのだ。 本格的な長期投資に資金をまわせば、経済効果は変わらないし将来への財産づくりも進む。

 借り家に住みながら、その一方で長期投資を続けていけば、将来への備えはどんどん進む。 現役引退後には、積み上がった資産の一部で小さなマイホームを現金で取得も可能となる。