資源のない日本は貿易立国で生きていくのだ、それが戦後復興を果たした頃から今日に至るまで、国民の間でずっと掲げてきた国是であった。 当初は安かろう悪かろうの代名詞とも揶揄されたメイドインジャパンだが、1960年代も終わりごろからは世界最高品質を裏付けるブランドともなっていった。
家電や自動車を中心にして日本製品は世界を席巻し、日本の貿易黒字は拡大の一途をたどった。 それが円高にもつながっていき、1971年8月までの1ドル360円が95年には80円を割り込むまでになった。
その図式が崩れつつある。 あれほど強固であった日本の貿易黒字が、その幅を急速に縮めてきて、いまや月間ベースでは貿易赤字となっている。
貿易赤字に至った要因は、原発稼働停止による原油や LNG 輸入の急増があげられる。 だから、原発再稼働を急げと政府や識者それに経済界の一部は主張している。
しかし、もっと大きな要因をしっかり認識する必要がある。 それは、日本企業とりわけ製造業のグローバル化が進んでいること、そしてこの傾向はさらに加速するということだ。
製造業のグローバル化が進めば、国内で生産して輸出する割合は減っていくから、貿易黒字が縮小していくのは当然のことである。 だからといって悲観することは何もない。 むしろ、それが日本経済の新しい図式と歓迎すべきことである。
かつて日本国内に世界最強の生産体系を築き上げた製造業各社は、世界に向けての輸出で大いに潤った。 円高がどんどん進んで行ったにもかかわらず、国際競争力を高め続けた。
しかし、さしもの世界最強の生産体系も構造的なコスト高を吸収できなくなっていった。 人件費をはじめ、硬直的な労働行政、利権や既得権がらみの諸規制、先進国でも米国と並んで高い法人税などがネックとなって、輸出競争力はどんどん削がれていった。
その横で、新興国を中心に世界中で消費需要が爆発的に拡大してきている。 いますでに膨大な需要が存在し、なおかつ世界の消費需要は急速に膨れ上がっていこうとしている。 とんでもないビジネスチャンスであり、日本からの輸出にこだわっている時ではない。
かくして、この5年ほど日本の製造業各社はグローバルベースの生産体系の構築に邁進した。 もはや進むしかないと覚悟しての海外進出である。 1ドル75円をつけるまでに進んだ円高は、日本企業の海外資本進出に強力な援軍となった。
おおよその布石は打ち終わった。 爆発的に伸びる世界の消費需要に現地生産で対応することで、これからはいくらでもビジネスを拡大できる。 もう韓国のサムスンや現代自動車とも、現地での競争だから戦う土俵は同じである。 生産性や品質それにアフターサービスの勝負となる。
一方、国内の生産体系は世界が絶対に必要とする高度な技術集約製品や基幹部品そして素材といったものに特化していく。 こちらは利益率も高く、これからの日本輸出を代表することになる。
そうなのだ、最終製品のメーカーはグローバル化で企業規模をどんどん拡大していき、成長の配当を資本収支の黒字として日本にもたらす。 一方、国内からの輸出は世界に対する圧倒的な競争力で安定的に拡大していくことになる。
ようやく、成熟経済的な産業構造が確立するのだ。 そこを読み込めば、一時的な貿易赤字など恐れることもない。 むしろ、海外進出していくメーカーであれ、国内からの輸出で世界的な地位を築いていく特異な技術企業であれ、長期投資家はとにかく買っておくことだ。
来週の月曜はずっと外なので、次の長期投資家日記は25日となります。