バフェット氏の長期投資とは違う

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 ウォーレンバフェット氏といえば、米国最高の投資家として非常に高い評価を得ている。 それも、1980年代からずっと最高の投資家の名を欲しいままにしているのだから、さすが長期投資家の頂点にある偉大な人といって良い。

 実績はもっとすごい。 ほとんど株式投資一本やりで築き上げた個人資産は5兆円とも7兆円ともいわれているし、彼が経営する投資会社バークシャーハザウェイの株価時価総額は、米国でも2位3位を争う巨額さを誇っている。 まさに、アメリカンドリームを地で行っている、とんでもない人である。

 それだけではない。 米国でも有数の金持ちとして高く尊敬されているが、彼の実生活は極めて質素とのこと。 数10年前に購入した普通の家に、いまでも住んでいる。 贅沢には興味を示さず、企業のアニュアルレポートを熟読するのを趣味としている、正真正銘の投資家事業家である。

 そのバフェット氏の投資だが、株式投資の王道を極めつつも、日々前進しているといった感じだろう。 企業の長期的な利益成長に乗って投資リターンを確保していくというのは株式投資のイロハのイだが、バフェットさんはそれを超のつくほど愚直に実践している。

 その延長線上で、彼は ”株主利益の拡大を追求してくれる企業なら、永久に保有してもいい” と言い切っている。 それが、バフェット氏をして長期投資の神様といった評価につながっているわけだ。  

 ここでちょっと考えたい。 われわれが追及する長期投資は、世の中にお金をまわしてやり、良い世の中を築いていこうとするものである。 将来こんな世の中にしたい、子供たちにこんな社会を残してやりたい、そう願う方向で経営している企業を長期視野で応援する。 どうせ応援するなら、皆が売り逃げに走っている時ほど積極的に資金を投入する方が、応援の価値がある。

 その点、バフェット氏はどんな企業でも長期的な利益成長を望めるものなら、どんな企業でもいいとする。 もちろん、彼のいう長期の中には ”その企業が長期で事業を伸ばしていくイメージが湧く”、つまり ”良くわかる企業” でなければならない。 同時に、長期の利益成長は一般社会が必要と認める事業やサービスでなければ、絵に描いた餅となる。 つまり、しっかり社会性を持った企業に投資しなければならない。 そういった企業選別が、バフェットさんの成功を支えているわけだ。

 ただしだ、バフェットさんのいう ”長期的に株主利益最大化を期待できる、すばらしい経営者が率いる企業” という切り口だけで良いものだろうか?

 たとえば、金融バブルを主導した大手投資銀行の経営が傾いた時、彼は大株主となっている。 その強大な経営基盤や、経営が立ち直った時の投資リターンの大きさからみて、リスクを取る価値があるという投資判断は、お見事である。 実際、彼は大儲けした。

 しかしだ、そういった企業が社会にもたらしたマイナス面や負の遺産は、国の巨額債務に肩代わりさせられているし、いずれは国民が支払わなければならない。 また、巨額の経営者報酬をせしめた幹部たちの道義的責任だって、無視できるものではない。

 そういった社会全体の富とか、将来につながる価値の追求といった観点からみて、本当に応援したい企業なのかどうか? この判断こそが、長期投資家に問われるところではなかろうか?