長期金利(国債10年物)が、マイナス0.165%の利回りにまで下落した。 それだけ国債価格が上昇し、またぞろ史上最高値圏を更新したわけだ。
今回は円高だとか景気の下振れ観測だとか、それに英国のEU離脱懸念も加わって、リスク回避の資金が国債に向かったということらしい。
国債は国が発行元だから、最も安全な投資対象とされている。 たとえ、その国がどれだけ財政赤字に苦しんでいようとも、国そのものが消滅することはない。 だから一番安全というのが通念となっている。
その通念とやらを、じっくり考えてみよう。 一体、どういう意味で国債は安全といっているのだろうか? たしかに、日本という国が消滅してしまうことは考えられない。
だからといって、これだけ財政が悪化しているのだ。 このままいくと、そう遠くない将来に日本の財政が破たんするということにもなりかねない。
その場合、国債の利払い費はもちろんのこと、元本の満期償還も怪しくなる。 国債の満期が到来しても、国庫に償還する資金がなければ、お手上げである。
実際、戦時国債が紙切れになった歴史も経験している。 あれは例外というなかれ。 日本の財政が破たんしたら、同じ道を歩むしかない。
つまり、国債が本当に安全かというのなら、財政が堂々たる黒字を維持しているドイツ国債しかない。 それに、ドルという国際通貨をいくらでも発行できる米国債までだろう。
では、なにをもって日本の国債も米国債やドイツ国債と並んで安全とされているのだろう? それは、いつでも売れるという安心感、つまり流動性が世界でも1位、2位という点にある。
一般的に投資対象を選ぶ場合、期待リターンの高さが真っ先に来る。 しかし、投資環境が悪かったりすると、いつでも売れる流動性の高さが重視される。 その意味で、日本国債も安全とされるわけだ。
さて、大事なのはここからである。 そうはいうものの、本当に国際金融市場が大荒れとなって債券も売られ始めると、市場金利の急騰から債券売りが殺到し、もはや買い手はいなくなる。
そうなると、債券は安全資産どころか悪夢の塊となり果てる。 保有国債の価格はどんどん値下がりしていくし、売るにも売れない状態でただ指をくわえるばかり。
1970年初めから83年まで、世界の債券市場はボロボロ状態だった。 その再来が、じわりじわりと迫っている。 ただ、当時を知っている運用者がどんどん少なくなっている。
一方、その後の運用者は金利下落局面すなわち債券価格の上昇しか知らない。 彼らからすると、国債は安全そのものと信じて疑わないのが常識だろう。
そういった信じ込みが、マイナス金利でも国債を買おうとする行動になってきている。 保有していても金利収入は得られないどころか、どこかでとんでもない値下がりリスクを抱え込むというのに、彼らは嬉々として買いに行っているわけだ。
そのうち、わかる。 こんなところでの国債投資が、どれだけ最悪だったかが。 その時は、彼らのほとんどが職を失っていよう。
★広告 さわかみグループが支援した映画「ザ・テノール」のDVD発売中! あの感動をぜひもう一度!! http://scpshop.jp/
★注意 上記の内容は澤上篤人個人の見解であり、さわかみ投信株式会社の考えおよび「さわかみファンド」の運用を説明しているものではありません。 個人の真意を尊重するため、原則、文章の修正はせずにブログを公開しております。