考え直そう、円安と低金利政策

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 円が対ドルで122円台と、7年ぶりの安値を付けた。 対ユーロでは129円台となったから、米ドルの独歩高にユーロ安が重なり、その間に円があるといったところ。

 昨年1年間を通じて大分はっきりしてきたことがある。それは、昔ほどには円安が輸出促進の特効薬とはならない、むしろ輸入支払い額が貿易赤字を拡大させてしまうということだ。

 その理由は簡単で、多くの日本企業がグローバルベースの生産体系を築き上げたこともあって、そもそも日本からの輸出が減少しているからだ。 したがって、円安になったところで、従来のような輸出ラッシュにはつながらないのだ。

 もっとも、グローバル生産体系の構築に乗り遅れた企業にとっては、円安は待ってましたの慈雨となっている。 しかし、中国など新興国の追い上げで、いつまでも円安による価格競争に頼った製品輸出は続かない。

 むしろ、日本からの輸出品目は円高だろうが値上げしようが、世界が買わざるを得ない高付加価値製品やブランドに特化していくべきだろう。 スイスの時計やドイツの機械産業のように。 中小企業でも同じこと。

 これは、新著にも書いていることだが、一国の通貨が高くなることは国民経済にとって大いにプラスである。 とりわけ日本のような高度に工業が発展した国においては、旧態依然の円安政策で競争力のない企業を存続させるよりも、海外が買わざるを得ない製品群で世界を引き離す戦略が求められる。

 同様に、やみくもな低金利政策は日本経済にとって大きなマイナスになっている点も、きちんと考えるべきである。 日本では個人金融資産1654兆円のうち、815兆円が預貯金に眠っている。 その現状からは、超低金利政策は弊害の方が大きいのだ。

 早い話、現在の預貯金金利0.02%では815兆円の預貯金が生み出す利子収入は、年間で1630億円でしかない。 (税込み、以下同様) それが、平常の3%~4%の利子水準だと、年間で24兆円から33兆円の家計収入となる。 その半分が消費に回ったとしても、日本経済を5%から7%近く押し上げてくれるのだ。

 忘れてならないのは、個人消費が国内総生産 (GDP) の60%前後を占めるということ。 家計の利子収入を高めて消費に向かわせる図式は、超低金利政策で銀行の企業融資枠を増やすなどの資金ばら撒きよりも、ずっと経済拡大効果は高いはず。

 米国とは条件が違う。 米国では個人金融資産における預金勘定は12%~14%でしかない。 一方、株式投資は年金や保険などによる間接保有分を含めると、50%を大きく超える。 したがって、低金利政策による株高効果は利子収入の減少をはるかに上回り、景気回復効果も高いのだ。

 日本に戻るが、理想は個人の預貯金マネー815兆円の10%でも長期投資にまわしたい。 ボケーッと銀行や郵便局に寝かせておくよりも、10%の81兆円を経済の現場に放り込ませる方が、はるかに経済活性化につながる。 ちなみに、単純計算だが81兆円は日本の GDP を16.7%も拡大させる巨額マネーなのだ。

 長期投資にまわすだけなら、個人一人ひとりの判断ですぐにでもできること。 別に政策の変更を待つ必要もない。 願わくは、円高で国力を高め、平常の金利水準で個人消費を活性化させ、長期投資を普及させたいものだ。