株式市場もメディアも、円高に対し過度に反応しすぎる。 いわく、円高で企業の採算が悪化し、それが雇用や賃金上昇を阻んで、景気にマイナスとなる。
いわく、円高で日本製品の国際競争力が低下して、貿易収支を悪化させる。 いわく、円高で海外からの投資や観光客にブレーキをかける。
どれもこれも、表面的には指摘のとおりである。 ただ、経済は生き物であり、状況の変化にどう対応するかでもって、次代の覇者を決定づける点を見逃してはいけない。
早い話、1971年8月のニクソンショックを皮切りに、ドル円レートは360円から308円に、そして250円さらには120円台へと円高が進んだ。 円はドルに対し3倍となったが、日本経済は80年代末までバブル景気を含めビクともしなかった。
そこまでの間、幾度となく繰り返したのが、円高で日本経済は終わりといった過剰反応である。 しかし、結果として株式市場やメディアの反応は杞憂に終わった。 その間に、企業の淘汰は着々と進んだ。
状況が変わったのは、90年代に入ってからである。 一部の識者は欧米が仕掛けた円高で日本経済は沈没させられたという。 だが、実体は違う。
欧米が円高を仕掛けたというよりも、バブル崩壊で生じた不良債権処理のため、生保などが海外資産を大量に売却して国内に戻した。 やみくもな円買いで、1ドル79円台(1995年4月)まで円高が進んだはず。
その後、日本経済の長期低迷で120円台まで円安に振れた。 しかし、リーマンショックによる大量のドルやユーロ売りが発生し、その反動で75円台にまで円高が進んだ。
それも束の間、安倍政権が誕生する前後から、世界の金融市場で売り込み過ぎたドルやユーロの買い戻しが始まった。 その結果、スルスルと120円台まで円安となっただけである。 海外が円高を仕掛けたというよりも、世界の金融市場でドル円、ユーロ円レートが揺れているのだ。
考えなくてはいけないのが、90年代に入ってからの日本企業の動向である。 一部の企業群は1ドル80円を切る円高にも必死の企業努力で対応した。
ところが、多くの企業は不良債権処理問題やデフレ対応とかで、国の政策に甘える体質が強まってしまった。 企業本来の自助努力を怠っているのだ。
そういった他力本願の企業群は、どっちみち経済環境の変化にはついていけない。 国だっていつまでも面倒見きれない。
そのあたりを本当なら株式市場が、優勝劣敗と適者生存の大原則で見定めてやらねばならないところ。 一方、メディアはいつだって目先のことを大変だと大騒ぎする。
そろそろ、今日の本論に入ろう。 為替相場は、ドル・ユーロ・ポンド・円を中心にして相対的な動きをするが、全部を足すとゼロになる。 つまり、円が買われてドルやユーロが安くなる。 あるいは、ドルやユーロが売られて円高となる。
つまり、その時々の経済情勢やマネーの動きによって、円高に振れたり円安になったりするだけのこと。 そんなものに企業経営が一喜一憂しているはずもない。
実際、多くの企業は為替変動を相殺させる(ネッティングという)手段を講じて、経営の安定化を図っている。 株式市場やメディアなどと一緒になって大騒ぎしてはいない。
ということだから、投資家もそろそろ円高への過剰反応から卒業すべきである。 もちろん、円高で株価が大きく下がったら、ゴキゲンの買いを入れよう。
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