米国の中央銀行にあたる FRB (連邦準備理事会)では、未曽有の金融緩和政策からの出口戦略を慎重に、かといって手遅れにならないよう進めている。
2008年9月に発生したリーマンショックを受けて、バーナンキ前議長が金融恐慌を回避すべく未曽有の金融緩和に打って出た。 FRB が米国債や住宅ローン債権を無制限に買い取る政策を断行したのだ。 それでもって、市中に潤沢な資金を供給しようということだ。
信用不安を抑え経済活動を活発化させようと、金融の量的緩和を第2弾そして第3弾と連発した。 それが功を奏して、米国経済は立ち直りの軌道に乗ってきた。
米国の景気回復の足取りがしっかりしてくれば、一刻も早く金融の量的緩和政策を終わらせて、じゃぶじゃぶにばら撒いた資金を吸収する必要がある。 そのまま放置すると、お金が暴れ出す事態に突入してしまう。
きわめて健全な考え方である。 信用不安が蔓延している間、大量にばら撒かれた資金は水面下で経済活動の下支えをするという役割を果たすが、景気回復とともに下支えの役割は減っていく。
すると、用がなくなった資金は水面下から経済の表舞台に顔を出してきて、なにか儲け話はないかとマネーの本質を発揮しだす。 過剰供給した資金が経済の現場あちこちで暴れ出す状態がパッと広がるのだ。
それはバブル症状といってもいいし、マネタリーインフレの襲来といってもいい。 これだけ大量に資金をばら撒いてきたのだ、そういった状況は突如として現実となる。
FRB が恐れているのは、まさにそこである。 お金が暴れ出す前に、粛々と量的緩和からの出口戦略を進めて金融を正常化させたい。 しかしながら、性急に資金を引き揚げると、せっかく回復基調に入ってきた景気回復の芽を摘んでしまう。
この微妙なかじ取りを進めているのが、米国の出口戦略である。 株価や住宅価格を叩き潰すことなく、つまり資産デフレを引き起こすことなく、異常な金融緩和から脱したいとしているのだ。 きわめて健全な方向性といえる。
ひるがえって日本は、まだ2%インフレ目標に向かって突き進んでいる段階であり、出口戦略も何もないといった状況下にある。 デフレ脱却が最優先で、お金が暴れ出すなど想定できないという考えで、政府や日銀そして専門家は一致している。
たしかに、消費の回復も鈍いし賃金の上昇もまだ一部にとどまっている。 デフレ状態からの脱出もフラフラしている。 だとしても、お金が突如として暴れ出す状況はいつでも発生しうる。
それを不況時の物価高、つまりスタグフレーションという。 景気はもたもたしているのに、バブル化した資金があちこちで投機に走りだす現象で、一般生活者の暮らしは厳しくなる。
まあ、スタグフレーションに陥るかどうかは別として、預貯金マネーはできるだけ長期投資にシフトしておこう。 生活者にとって大事な企業の株主になっておくことは、なにが起こっても安心な財産の置き場所なんだから。