攻めの経営

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もうかれこれ32年にわたって企業経営に携わっている。

そのどれもが自分で創業した会社である。

スイスの銀行の日本代表をしているときも、

すべて任すという条件がを出してきたから引き受けて、一人でゼロからはじめたもの。

 

経営者としてはそこそこ長い年月を歩んできたが、

そのレベルはどんなものだったか問われと、極めて心もとないものがある。

たとえば、一貫して投資運用業界に身をおいてきたから、

運用ビジネスとしてどれほど預かり資産の規模を巨大化してきたかとなると、

まあ大したことないといった評価だろう。

 

なにしろこちらは、

年金はじめ巨大資金を要する機関投資家に向けての顧客資産獲得のマーケティングに、

まったく興味はない。

経営者としてビジネス拡大の責務は全うしなければならないのだから、

機関投資家営業をまったくやらないというのは困りものだろう。

そうは言うものの、たとえば1980年代の前半5年の間に、

自分と秘書一人で1000億円を越すビジネスを築き上げたから、

事業採算的には誰にも負けはしないが。

 

では、どうして年金という巨大なビジネスチャンスに挑戦しないのか?

せっかくなら、もっと攻めの経営に徹してもいいのではないのか?

そう問われたら、あなたならどう答えるだろうか。

こちらは、敢えて大きなビジネスチャンスを捨てるというのも、

立派な攻めの経営であると受け流すぐらいかな。

 

運用ビジネスというものは、

積みあがった実績をみて顧客の方から運用資産を持ち寄ってくれるものである。

資金を預ける立場からすれば、

どんな哲学でどういった運用をしている会社なのかをチェックしないで、

資金を預けるわけにはいかないだろう。

運用会社の方も、自社の得意とする運用をよしとする資金だけが集まってきてもらいたい。

そうしないと、まともな運用なんてできやしない。

 

となると、年金資産獲得のマーケティングは運用ビジネスとして邪道なのか。

いや、ただ巨大資金を集めたいというのなら、ドンドンお好きにやればいいだけのこと。

運用という名の利益獲得事業に徹するという経営者にとっては、それもひとつの挑戦である。

 

こちらは、個人の長期の財産づくりをお手伝いさせてもらおうとしている。

年金といえども、もとは一般生活者の大事なお金である。

それを長期投資で運用していくにあたって、

ビジネスとして割り切るなど絶対にできない相談である。

投資の理念や哲学を共有できないまま、資金をお預かりするわけにはいかない。

 

だから、営業などせず世の中がこちらの長期投資哲学を理解してくれるまで、

ひたすら待つ経営スタイルは変えない。

それが故に、いまだ2500億円ほどの預かり資産に甘んじている次第でもある。

でも、ここから10年もすれば状況は様変わりとなるのだろう。

長期投資家らしい長期視野の攻めの経営をしているから、この10年間は大いに楽しみである。