機関投資家は運用のプロか?

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 こういう書き出しにすると、あちこちから反発を食らうのは間違いない。 とりわけ機関投資家からは、いい加減のこと言わないでくれと叱られそう。

 もちろん、機関投資家として働いている人々は、みな運用のプロとしての自覚をもって日々の仕事にあたっている。 自分なんかよりはるかに高いレベルの勉強をしている人も数多い。

 その意味では、運用のプロかどうかなんて問いかけるのは、機関投資家にとって失礼千万の話であろう。 実際、年金など投資家顧客のニーズに適った運用をやって、その報酬を受け取っている。 ビジネスが成り立つというのは、それなりに価値のある仕事をしている証明であるのだから。

 ひとつ、きちんと整理して考えなければならないことがある。 それは、どんな運用なのかということだ。 つまり、資金運用なのか投資運用なのかという区分けをする必要がある。

 いま機関投資家のほとんどは、資金運用の世界で生きている。 資金運用とは毎年毎年の成績を問われる作業のことをいう。 毎年どれだけの成績を上げるかでしのぎを削っているのが、運用のプロを自認する機関投資家たちである。

 そういった運用を求める投資家顧客の要望に応えなければ、資金を預けてもらえないし機関投資家商売が上がったりとなる。 毎年の成績はどんなかと問われて、10年先の成績を見てくださいとは言えない。

 その典型が年金である。 本来は、10年20年の時間軸で運用資産の最大化を求めるものだが、10年たって運用がお粗末だったでは手遅れとなる。 受益者の老後生活に悪影響を及ぼしかねない。 やはり、毎年毎年の運用状況や成績を厳しくチェックしなければならない。

 この論理に従う限り、どの機関投資家も資金運用の世界に引きずり込まれてしまう。 できるだけ損失リスクをコントロールしつつ、小さな売却益を積み上げて毎年の成績をつくっていく。 きわめて計算づくの作業を、高度にこなすプロが機関投資家というわけだ。

 投資運用は違う。 皆がリスクを恐れているような時に、どうぞと資金を提供し経済活動の縮小を防ごうとする。 小さな計算など通用しない。 しかし、経済活動が活発化してくるにつれ、投下した資金は大きく太って戻ってくる。 だから、投資のリターンという。

 その点、資金を転がして利ザヤを積み上げていこうとする資金運用には、経済を拡大発展させていこうとする思いとか意識など不要。 現に、機関投資家の多くがマーケットをみてマーケットに群がっているだけではないか。

 一方、長期投資家の投資運用には経済や社会を良くしていこうという強い意思が、そもそもの出発点となる。 日本経済や社会の将来に責任を持とうとする意識が絶対に欠かせない。

 残念ながら、日本に投資運用のプロはほとんどいない。 だからこそ、世界最大の債権国であり816兆円もの個人の預貯金を抱えているのに、日本株も日本経済もこれだけ低迷するわけだ。