貿易収支の悪化と、経常赤字

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 長らくドイツと肩を並べる輸出立国として、膨大な貿易黒字を我がものにしてきた日本だが、東日本大震災の前後から様相が変わってきている。

 しばしば月間ベースで貿易赤字を計上しだしたと思いきや、いつの間にか恒常的な赤字傾向を問題視するようになってきた。 片や、ドイツでは絶好調の輸出を中心にしてヨーロッパ最強の経済を謳歌している。

 原発の稼働停止で原油や LNG の輸入代金が急増したためだけではない。 日本からの輸出そのものが数量的にも金額的にも、かなり落ち込んできている。 その両面から貿易赤字が定着しだしているのだ。

 そうこういっている間に、今度は経常収支までもが赤字となってきた。 1月は過去最悪となる1兆5千億円の経常赤字となった。 貿易赤字ならともかく、経常収支の赤字が定着してくると問題である。

 経常赤字が恒常化するとなれば、日本は対外的な借金を積み増していくことになる。 ここまでは、300兆円を超す対外債権を有し、世界最大の債権国としての地位を欲しいままにしてきた。 それが崩れるとなると、対外的な借り入れのために高い金利支払いを余儀なくされ、日本の国債の値崩れは必至となる。

 となれば、国の財政運営にも赤信号どころではなくなる。 毎年の予算執行に40兆円強の新規国債発行を当て込んでいるが、その資金調達もままなくなるは、国債の利払いコストが跳ね上がるはで、八方ふさがりの苦境に追い込まれてしまう。

 さて、ここからが長期投資家の出番である。 一般的には、貿易赤字から経常収支悪化ともなれば日本売り、つまり株価下落を懸念して株式市場も売り先行を意識しがちとなる。

 ところが長期投資家にとっては、むしろ絶好の買いチャンスが広がることになる。 ひとつずつ洗い出してみようか。

 先ずは、貿易赤字の定着。 原油や LNG の輸入代金支払いが増えれば増えるほど、原発再稼働を急ぐ声も高まろうが、より根本的な課題解決の動きが加速してくる。 自然エネルギーの開発普及を含め、代替エネルギーの分野で技術革新が進む。 幾多のエネルギー関連企業が台頭してくるはず。

 輸出の落ち込みは、日本メーカーの対外進出が進んだためであって、この傾向はもう止められない。 家電や自動車などの耐久消費財はじめ生活用品まで、海外では新規需要が爆発している。 量産効果で価格競争力を高めるにも、現地化は必須である。

 当然のことながら、日本からの輸出は高度な技術に裏付けられた高級品中心に、世界では生産できない製品群に置き換わっていくことになる。 高度な技術集積素材や基幹部品からロボットまで、日本の輸出品目が様変わりとなっていくだけのこと。

 現時点での貿易収支や経常赤字は、日本経済の地力からみてもそう心配はいらないだろう。 ただし、個人や企業の自助の努力は不可欠であり、そこをクリアしたところにのみ明日がある。 そして、国債はどうせ時間の問題で値崩れするのだから、さっさと遠ざかっておけばいい。

 これらのどれも、われわれ長期投資家には当たり前のことのはず。 しかし、世の中はその都度、右往左往しよう。 面白い展開となっていくと思うよ。