英国で試行錯誤を繰り返しながら磨き上げてきた ISA (小口投資非課税口座)が、日本でも導入されることになった。 一人が一口座だけ設定できるという制度だから、どこの金融機関も NISA 口座をできるだけ多く獲得しようと全力を挙げる体制に入った。
正直いって、この制度は中途半端すぎる。 現時点では、10年間と期間限定されており、その間の売却益や配当収入に税金がかからないというだけのこと。 長期の財産づくりを心掛けるにあたって、たとえば投信なら10年を超えて20年30年と長期保有した方が、再投資の複利効果をより大きくできる。 つまり、その間の税控除なんて何の意味も持たないのだ。
もうひとつの中途半端は、年間100万円までしか適用されないから、10年で最大1000万円の個人マネーが NISA の対象となる。 それを、いくらどったんばったんと売買を繰り返しても、3000万円5000万円の財産にしていくのは至難の業である。
もちろん、従来型の証券ビジネスや投信業界にとっては、たとえ10年間限定だろうと、年間100万円までだろうと、 NISA 口座をより多く獲得する意義は大きい。 株式の売買や投信の乗り換えを頻繁にしてもらって、その都度手数料をがっぽり稼げる。 また、毎月分配型の投信では税控除が格好のセールストークとなる。
これまで投資に縁のなかった個人の預貯金マネーを、より広い裾野から NISA に向かわせるのは、それなりに意義は大きい。 しかし、株式や投信の短期売買を誘って、手数料収入を増やす道具にしようという魂胆は低次元すぎる。 そんな程度のビジネス戦略では、いずれ必ず反動を食らうだけだ。
さわかみ投信としては、お客様の利便性をかんがみると NISA の取り扱い準備に入らざるを得ない。 システム開発やら、12万人のお客様へのご案内やらで、驚くほど大きな予算を計上しなければならないが、これは仕方がない。
まあ、 NISA の準備をしつつも、10年の限定ではなく恒久的な制度にしてもらったり、短期売買よりも長期保有がより有利になるような制度改正を訴えていきたい。