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【国民ファンドで日本経済を活性化する】

一石五鳥の政策効果が期待できる

 日本のような個人金融資産の蓄蔵が進んだ成熟経済では、「貯蓄から投資へ」の流れを促進させることがリスクマネーの醸成につながり、経済成長力を高めるのに大きな役割を果たす。投資とは安く買って高く売る経済行動で、不況時や株価暴落時に敢然とリスクを取れる株買い資金が大量流入すれば、その分だけ経済の現場へ資金が投入されることになる。つまり、民間版の景気対策を自然体でやってしまえる。

 国民ファンドはファンド・オブ・ファンズの形態を採るが、日本株の現物買いというテーマで各ファンドに競争運用させる。各ファンドは長期スタンスで成績向上を目指すから、不況時や相場暴落時などでは積極的な買い仕込みをする。それはまさにリスクマネーの投入であり、日本経済の活性化をリードすることになる。これが、国民ファンド第1の利点である。

 預貯金に眠らされている個人マネーが国民ファンドを通して株買いに向かえば向かうほど、日本株市場はみるみる活況となる。株価上昇が社会経済全般の心理を明るくさせ、資産効果をも生みだす。つまり、個人消費を活発化させ企業の投資意欲も高まるわけで、日本経済に拡大再生産効果をもたらす。これが、第2の利点である。

 国民ファンドは、世界最大の眠れる資源である日本の預貯金マネーを本格的な投資運用に向かわすきっかけをつくるだけではない。日本の金融システムに歴史的な一石を投じることになる。どういうことか?

 伝統的に間接金融主体でやってきた日本の経済運営では、国の政策意図を金利動向などに反映させやすい反面、市場本来の機能が十分に働かないきらいがある。たとえば、オーバーバンキングといわれるほどに預貯金残高が積み上がっている。それが無条件に国債購入の受け皿となるから、国はゼロ金利に近いコストで国債を野放図に発行できてしまう。

 そういった節度を欠いた国債の大量発行に対して、市場は金利上昇で警告を与えるといった機能をまったく発揮しない。このまま行き着くところまで行ってしまえば、国債の暴落とか市場金利急上昇で経済全体に大混乱をもたらす。もちろん、銀行などの経営も厳しい局面に遭遇する。

 それを国民ファンドが個人の預貯金マネーをどんどん吸収し株式市場に仕向けることで、すこしずつではあるが直接金融の流れを太くし、市場機能を高めることができる。これが、第3の利点である。

 第4の利点として、国内外の運用プロ達をオープンコンペに参加させ競わすことで、日本の運用水準を世界トップレベルまで引き上げる布石が打てる。成熟日本において本格的な投資運用は、かつて企業が積極的な設備投資を繰り広げたのと同じほど重要な役割を果たす。そこで鍵となってくるのが、本物の運用プロ達がどれだけ層ぶ厚く存在するかだ。ここでも国民ファンドが大きく道を開くわけだ。

 最後に第5の利点だが、世界の運用プロ達の間では、年金中心に短期の成績評価に追いまくられ、本格的な長期投資をやらせてもらえないことで、相当にフラストレーションが高まっている。そんなところへ、日本に国民ファンドが登場し、長期の累積成績を高めればいくらでも資金を預けてくれるという。これは彼らにとって願ってもないチャンスである。日頃のうっぷんを吹き飛ばしつつ思う存分の長期投資を展開できる。

 同時に、すこし先の話になるが国民ファンドの成績が積み上がれば上がるほど、世界の年金運用が本格的な長期投資の良さを再認識することになる。「年金は大事なお金だから、毎年毎年の運用状況や成績をきちんとチェックしなければいけない」で、いつの間にか短期指向の運用になったりヘッジファンドを多用するようにもなった。反面、世界的に長期投資ができなくなってしまった。

 年金運用は20年30年後の支払いのため、できるだけ運用蓄積を高めておこうとするのが本来の姿。それなのに、最近は毎年の成績にばかり追いまくるようになってしまっている。

 そこへ国民ファンドが本格的な長期投資の成果をまざまざと見せつけたら、どういうことになるか楽しみである。

 

 完(2010年7月21日記)