投資しないリスク

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 この表題ではじまれば、長期投資家日記ブログを読んでくださっている皆さんなら、すぐピンとくるだろう。 個人の経済的自立に本格的な長期投資は不可欠であり、大きな味方になっていってくれる。

 ましてや長寿化や年金不安を考えると、長期投資で自分年金づくりを進めておかないリスクは相当に大きいと、誰もが大なれ小なれ感じている。 それでいて、何の行動もしていないのは、まさしく将来リスクである。

 その辺りは、これまでもまたこれからも繰り返し訴えていくことになる。 今日はもっと広い意味で、そう経済全体においての ”投資しないリスク” を考えてみよう。

 数年前から企業の投資水準は低い、手元に資金を貯め込みすぎだと各方面から指摘されてきた。 それが景気浮揚をいまいち推し進められない要因だと、エコノミストなど専門家の批判を浴びている。

 しかし、よく見てみると企業の投資は結構な高水準であり、むしろ相当に積極的に進められている。 ひとつだけはっきりしているのは、国内での設備投資の伸びが昔と比べ低水準になっていること。 それは、多くの日本企業がビジネスのグローバル化を進めており、国内での投資分が海外への資本出資に振り替えられているからだ。

 もっとも、資金をため込むだけで将来へ向けての投資に積極的でない企業も結構ある。 そういった企業はどっちみち経済の拡大発展にそう貢献しないから、横へ置こう。

 それよりも、今日のテーマは800兆円に上る預貯金マネーの存在である。 企業に投資しろという前に、この800兆円の一割でも投資にまわしたら日本経済はどうなるかだ。

 800兆円の預貯金を抱えているのは、1億2750万余の個人である。 その60%強は60歳以上の高齢層の保有で ”投資にはどうも” というのが一般的な捉え方である。 そこで思考停止してきたからこそ、日本経済のかくも長い低迷の一端となっているのだ。

 また、預貯金800兆円の40%弱を占める現役層は、子育てから教育費そして住宅ローンに追われて投資の余裕はないという。 その横で、年金不安はみな共有している。

 高齢層も現役層も一律にとはいわないが、ともかくも預貯金800兆円の一割である80兆円が動くと、日本経済の規模からみると16.8%分の資金移動が発生することになる。 途方もなく巨額の資金が居場所を変えるわけだ。

 はっきりしているのは、預貯金経由で国債購入に向かっていた資金が、投資として直接に経済の現場へ放り込まれることになる。 それは、国による借金財政ベースの景気対策から、個々人の意思による経済活性化へと大きく方向転換することを意味する。

 もちろん国債市場は大混乱をきたすだろう。 国の予算編成にも狂いが生じよう。 その横で、80兆円もの資金が投資勘定として経済の現場に放り込まれることから、日本経済はすさまじい活況となろう。 そこから生まれる税収が国の財政健全化を強力にサポートすることになる。

 そう、一時的に日本経済や社会を大きく揺るがすことになろうが、日本の政治家に期待できない経済の根本的改革とそれによる活性化を、預貯金者がやってのけてしまえるのだ。 それも、預貯金に眠らせてある資金のたった一割を動かすだけで。

 で、投資しなかったら? 1000兆円を超す国の借金が毎年毎年40兆円以上ずつ上乗せされるだけのこと。 そのツケは必ず国民にまわってくる。 その上、年金の当てにならない度合いがはるかに高まるし、頼みの預貯金そのものがインフレなどで目減りすることになる。

 このままだと、投資するしないにかかわらず、ものすごい将来リスクが横たわっているのだ。 もはや、思考停止している時ではない。