新潮社から11月半ば頃に出版される、長期投資家の発想法といった新著が最終ゲラのチェックを待つ段階まで来た。 これで今年の著作予定は、もう1冊を残すのみとなった。
もう1冊は、ずいぶんと時間がかかっている労作(?)で、長期投資家の企業分析という本格派。 こちらは、ここ30年ほどの世界的な機関化現象がもたらした短期指向の企業経営に、真っ向から長期の価値観をぶつけたものである。 なんとか年内に仕上げたいとは思っているが、さてさてといったところ。
長期投資家の発想法に戻るが、基本は ”推” と ”論” である。 将来への思いや夢や願望をできるだけしなやかに伸ばしてやり、いろいろな可能性を入手しうる限りの論理を駆使してつなげていく作業を、これでもかこれでもかと繰り返す。
具体的には、模造紙など大きな紙の上にフローチャートを作成しては、将来の可能性をあれやこれやと視覚的に考えてみることだ。 思いつくままの発想を次から次へと書きなぐっていき、それらの関連性をこれまた自由自在に結び付けてみるのだ。 そういった作業を延々と続けるうちに、模造紙が真っ黒けになってくるぐらいがちょうどいい。
そういったフローチャートを何枚も何枚も作成していると、世の中の出来事を多面的に考える力がついていく。 すると、マスコミ報道などで相場や投資家心理が一方に大きく振れている時でも、違った角度でまったく別の展開をあれこれと考えられるのだ。 長期投資家にとって、その価値は尋常ではない。
たとえば、原油価格が1バレル90ドルを割ってきた。 3年数か月ぶりの安値ということで、資源関連全般に弱気の見方がひろがっている。 それで、やれ世界の景気は変調をきたしている、やれ投資家の間で玉整理の投げ売りが続出しリスク回避志向が高まっているなど、やたら騒々しい。
フローチャート思考でいくと、それがどうしたのと落ち着いたもの。 原油価格がもうしばらく下がると、シェールオイルなど高コストの油井が音を上げて生産調整に入る。 つまり、供給が絞られ原油価格の下落に歯止めがかかるはず。 その横で、世界全体のエネルギー需要は着実に増え続けているのだ。
あるいは、外貨獲得のほとんどを資源輸出に頼っているロシアが、対ウクライナはじめ外交政策全般を軟化させることも。 それが、対シリアや対イスラム国で世界的な協調路線につながっていくことだってあり得る。 すると、地政学的リスクとかいわれているものの多くがうさん霧消していくことになる。
これらは単なる強気とか根拠のない楽観論ではない。 世界の社会経済事象を多面的にみる訓練を積んでいると、自然と生まれてくるバランス感覚といったものである。
11月半ば頃に出る新著の宣伝をするつもりはないが、フローチャート作成で多面的な思考力を鍛えておくと、長期投資が楽になる。 いまのような株価下落時には、安いから買っておけと迷いはない。
同時に、なにを買っておいたら良いのかの判断も自然とできてしまう。 いつでも、あれやこれやと多面的に考えているから、その時々の展開可能性に乗せた投資対象の選別もできてしまう。
格好つけて言うと、長期投資って将来に向けての柔軟でしなやかなイマジネーションを飛ばし、それらをあれこれ関連付ける論理的な思考力なんだ。 相場を追いかけては、相場に勝負を挑む短期投資とは違う。 限りなく知的な勝負とでも言っておこうか。