世界とりわけ米国の株価は異常なほどに、しぶとい値上がりを続けている。
米FRBが、金利は上げさせないぞといった強いメッセージを発信し続けているのも、その背景の一つである。
また、米国の経済が力強い回復に入っているといったデータが、ひとつまたひとつと躍り出てきているのも大きい。
それ以上に、投資家たちの「下げの怖さを知らない」買いっぷりには、ただただ驚かされる。
下げの怖さを知らないどころか、そもそも株価が下げるという想定すら念頭にないようだ。
したがって、ガンガン買っている彼らのどこにも、バブルなんて意識はないといっていいのかもしれない。
投資家以上にすごいなと思わせるのが、投資銀行や証券会社の腕利き連中だろう。
最近、破産のうわさが流れ始めたファミリーオフィス、アルケゴスが好例である。
アルケゴスの金融取引の実態はこれから明らかになるのだろうが、そこに群がった連中のえげつなさも特筆される。
その中には、デリバティブ取引の一種である「トータル・リターン・スワップ」(TRS) という手法がある。
この手法を使えば、投資家が株式を保有せずに株価上昇の利益を得ることができる。また、株価下落の損失も回避できる。
投資家にとっては、おそろしく都合のいい手法だが、万事うまくいったらという前提の上でだ。
事実、スワップ取引の相手方だった米国の投資銀行のひとつが担保に取っていた株式を売却したことから、ギアは逆回転に入った。
たちまち、アルケゴスのTRS はずたずたになり、関連していた金融機関は軒並み巨額の損失を蒙った。
その仕組みでは、名目上の保有者は金融機関なので、当事者のアルケゴスは持ち高を公表する必要がない。
それで、提供していた株式などの担保に対し、5倍とかのレバレッジをかけるなど、巨額の投機が可能となった。
すごい、隠れ蓑であるが、そういった仕組みを次々と編み出している連中が、投資銀行や証券会社の凄腕である。
彼らは、デリバティブを駆使してTRS のような仕組みを編み出しては、投資家や金融機関に売り込んで巨額の手数料を稼ぐ。
凄腕の彼らもそうだが、提案に乗る投資家や金融機関のいずれも、バブルボケしているとしか表現のしようがない。
バブルボケの大軍団が、現在進行形の金融バブルに乗って、行き着くところまで行ってしまうのだろう。
その後には、収拾のつかないような大損失と不良債権の山が残されるのは、もう避けようがない。