経済は、すべて需要と供給でもって語ることができる。 需要が高まれば価格が上がって、供給が増える。
供給が増えすぎると価格が下がっていく。 価格が下がれば、新規の需要を喚起して、次なる経済活動につなげていける。
この需要と供給の力関係を、時々刻々の価格変動でもって発信するのが、マーケットの重要な機能である。
個別の相対取引とは違って、不特定多数の需要と供給が自由かつ随意に集まって、その時々の需要と供給のバランスを模索する。
その客観性こそが、マーケット機能の命であり、より健全なる経済行動を喚起する情報発信となる。
ところが最近は、マーケットの客観性を無視するというか押しつぶす暴挙が目立ってきている。
その最たるものが、ゼロ金利政策である。 デフレ脱却、企業の投資意欲拡大、景気浮揚、いろいろな政策目的でもって、金利をゼロに持っていっている。
ゼロ金利下であれば、財政赤字を埋めるべく大量に発行する国債の利払い負担は低く抑えられるから、国にとっては好都合である。
ところが、その強引さがマーケット機能を押しつぶし、長期的には国すなわち国民は大きなツケを蒙ることになる。
通常のマーケットであれば、大量に国債発行すれば、供給過剰で国債価格は下がって金利は上昇する。
金利が上昇すれば、国債の発行コストが上がり、やみくもな国債の増発にブレーキがかかる。 これが、マーケット機能である。
マーケットの需給調整機能を人為でもってないがしろにしていくと、将来ふりかかってくるツケがどんどん積み上がっていっていることに要警戒である。
早い話、国の財政はどんどん悪化し、国債発行残高は積み上がる一途だから、いつかは財政破綻とインフレの襲来は避けようがない。
あるいは、日銀による株式ETF購入。 もう35兆円ほども買い上がって、日本最大の株主になろうとしている。
株式ETFを購入するということは、上場している企業の株式を全部まとめて買い上がるわけだ。
株価を引き上げるという政策目的にはかなうかもしれないが、マーケットによる適者選別の機能を押しつぶすことの弊害は甚大である。
日銀にしても、玉石混淆の企業を網羅したETFでもって日本最大の株主になったところで、もはや売るに売れない状況に自分を追い込むことになる。
通貨の番人である中央銀行が、石ころのような企業の株式を大量に抱え込んで、身動き取れなくなった姿を想像してみよう。
経済活動の原点である、需要と供給のバランスを政策で押しつぶしていって、その先で待っているのはなにか?
収拾のつかない大混乱が経済の現場のみならず、われわれの生活にも襲い掛かってくるのだ。