年金は本来、長期投資の権化であるはず。 いま年金を積立ている人たちが、年金の給付を受けるのは20年30年40年後である。
とてつもなく長い時間を与えられているのだから、思い切り長期視野の投資ができる。
相当に大きなリスクを取ってでも、長期視野で投資リターンの最大化を狙っていい。
ところが、1980年代に入って年金が世界最大の運用マネーに躍り出るとともに、運用からマーケティング主体のビジネスへと変身していった。
それと、米国でエリサ法が制定されて、年金は大事なお金だから、運用者は慎重かつ節度ある投資を心掛けるべしと定められた。
この二つが重なって、年金運用は毎年の成績を競うビジネスに一変した。
毎年の運用状況をチェックすることで、運用者の暴走を防げるし、運用成績がマーケティングの指標となる。
世界最大の年金マネーが毎年の成績を追いかける短期運用に傾斜していったから、他のあらゆるマネーも運用を短期化することになった。
その結果、世界中の機関投資家が毎年の成績を追いかける資金運用を是とするようになり、まともな投資運用は絶滅危惧種となっていった。
機関投資家は毎年の成績をひねり出すために、大株主として企業に短期視野の経営を迫ったり、株価が上昇するような企業買収やM&Aを強く支持する。
当然のことながら、株式市場では短期のディーリング売買が主体となり、巨額の機関投資家マネーによる力まかせの株価形成が常態化した。
そこへ日銀が毎年6兆円ずつTOPIXや日経平均のETF(上場株式投信)を買っていて、その残高は29兆円に達した。
来年には公的年金を抜いて、日銀が日本最大の株主になるとのこと。 日銀が株式市場を目茶苦茶にしているのだ。
目茶苦茶? 東証の全上場銘柄、あるいは日経平均に採用されている全銘柄をパッケージにしたETFを、日銀が買いまくっている。
本来なら、個々の企業に優勝劣敗と適者生存を迫り、公正な価格形成を促す株式市場の機能を、日銀が力で押しつぶしているのだ。
もはや淘汰されてもいいような企業の株価も、ETF買いで押し上げられるから、東証の株価形成機能はマヒ同然である。
年金による資金運用と日銀によるETF買いとが、株式市場を短期のディーリングの場とし、玉石混淆で株価を押し上げているわけだ。
こんな目茶苦茶を続けていると、株式市場は力任せの投機の場と化し、まともな企業は上場を見直すことにもなりかねない。
機関投資家や日銀が寄ってたかって株式市場を壊しつつある現状は、きわめて危険である。
このままいくと、どこかで収拾のつかない株価暴落もあっておかしくない。
不合理で理不尽な株価上昇策に鉄槌を食らわすのも、マーケット機能である。
明日は、早朝から福岡出張のため、長期投資家日記はお休みです。