マーケット、とりわけ株式市場や債券市場は経済活動のあらゆる面で、行き過ぎに警告を発信する機能を持っている。
たとえば、熱狂相場が過熱してくると、一部から利益確定の売りが出てきて、それが株価暴落のきっかけをつくってくれる。
不正経理を働いた企業に対しては、株価の大幅下落でもってマーケット、つまり公開の場からの退場を促す。
あるいは、国が野放図な国債発行を続けると、マーケットで既発国債が売られる。
債券の売りは金利上昇につながり、新たなる国債発行にブレーキをかけてくれる。 野放図な国債発行に対する警告である。
経済活動はすべて需要と供給のバランスの上で成り立っている。 需要と供給の力関係をしめすのが、時々刻々の価格変動である。
買いでも売りでも一方向へエネルギーが偏れば、ちょっと買われ(売られ)過ぎじゃないかといった心理が燻り出す。
同時に、反対方向へのエネルギーが静かに蓄積されていく。 どこかでそれらが爆発することで、行き過ぎが調整される。
マーケットが持っている、このバランス感覚と行き過ぎを是正する力の働きを市場機能という。
マーケットが透明で公正であればあるほど、市場機能はしっかりと働いてくれ、より健全なる経済活動を促進させる。
その過程で、不適切な価格形成や市場参加者は否応なしに削ぎ落とされていく。 これを市場の浄化作用という。
ところが最近は、市場機能をないがしろにさせる力が、やたらと幅を利かすようになってきた。
第1は、機関化現象の進展とインデックス投資やETFの台頭が、株式市場で支配的になってきたこと。
機関投資家は押しなべて同じようなタイミングで、同じような方向に大量の資金を振り向ける。
資金量が圧倒的に大きいから、反対方向へのエネルギーを蹂躙するかのようにして、価格を上昇(下落)させる。
また、インデックス運用やETF購入は個別企業の動向など無視するから、本来なら脱落すべき企業も温存させてしまう。
第2は、超低金利政策でもって国債を増発してきていること。 国と日銀がタッグを組んで、この政策を強力に推し進めている。
こんな低利回りで国債を買ったところで、それほどの投資リターンを期待できないと、普通なら投資家は判断する。
ところが、国や日銀が政策金利をどんどん引き下げてくると、そんな低利回り国債でも買えないことはないとなる。
そして、こんな低利回り(国債価格の高値)なら、そろそろ保有国債を売っておこうという、投資家本来の判断を遠ざけてしまう。
第3に、世界的な資金ばら撒きで、大量の資金がマーケットに滞留していること。
日本、米国、EUの中央銀行はリーマンショック後に資産を4~5倍に膨らませて、史上空前の資金供給を実施している。
天文学的な資金が買い手となって、マーケットに流入してきているから、株価も債券も不動産もバブル高させている。
通常であれば、バブル相場の終焉を迎えても良いのに、さらにマイナス金利政策でバブル高を煽っているのだ。
以上、こういった、とんでもない力で強引に株高・債券高・低利回りにしている現状に、マーケット機能は完全に押しつぶされている。
ということは、健全なる経済活動を歪めまくっていることになる。 この反動は、いつか必ず出てくる。
いかに時の為政者が中央銀行を引き連れて、強引に市場を支配したところで、人為はしょせん人為。
大自然と同じく経済活動も人為でコントロールし切れるものではない。 そう遠くない将来、大きなしっぺ返しが襲ってくるだろう。
我々の長期投資は、いつでもまともな経済活動に足場をおいている。 したがって、大津波が襲ってきたところで、慌てることはない。