オペラのオーディションを通して、文化というものを考える

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 今日の予定が一つ流れて、すこし時間が取れたから、昨日の続きを書きます。 昨日で今年のオーディションは終わったが、日本人180名、それ以外にイタリア人中心に20数名の挑戦に、じっくりとお付き合いさせてもらった。

 オペラを歌いたい彼ら彼女らの、より高いレベルで歌いたい気持ちがひしひしと伝わってくる。 何がそうさせているのだろう?

 歌いたいから、歌うのが好きだから、自分の歌を聴いてもらいたいから、感動してもらいたいから、、、、、。 まあ、いろいろあるのだろう。

 好きに歌って食べていけたら、人生それでいい。 そういう人もいれば、歌手として世界的に大成功したいという野心満々の人もいよう。

 そういった彼ら彼女らの歌を聴きたいという人たちも世界中に一杯いる。 こちらは、歌を聴きたいという思いや受ける感動に、お金を払うのを厭わない。

 極端にいえば、歌う方も聴く方もオペラが生死にかかわる根源的なものではない。 でも、なくてはならないものとして、どちらの人生にも組み込まれているのも事実。

 そのあたりが、文化というものなんだろうね。 実際、オーディション会場で彼ら彼女らの挑戦に向き合っていると、時間の経過を忘れるし、お金の感覚もどこかへ行ってしまう。

 1銭にもならないといってしまえばそれだけのことだが、すごい価値を感じるひと時であるのも否定しようがない。 その価値を、お金に換算しようなんて気にもならない。

 はっきり言えるのは、良い気分だということ。 お金ではない、心の贅沢である。

 オーディションに戻るが、ちょっと楽しみな歌手たちが結構いた。 ちょっと楽しみと書いたのは、オペラの本場イタリアで大きく育ててあげられそうな才能を発掘したということ。

 さわかみオペラ財団の活動はイタリアで評判となっており、いくつかの歌劇場から特別のオファーを受けている。 その一つが、歌劇場へ出入りできるという特権である。

 世界中からオペラ歌手や指揮者そして演出家の卵たちが集まって来ているが、いずれも歌劇場の周りで修業に励むだけ。 よほど才能を認められて、はじめて歌劇場への出入りが許される。

 ところが、うちのオーディション合格者にはイタリアトップクラスの歌劇場へ出入りできるという特権が与えられる。 歌劇場へ毎日通って、世界レベルの歌手たちの練習やリハーサルに接して、いろいろ吸収できる。 そのうち、少しずつ抜擢もある。

 現に、昨年のオーディション合格者8名のうち、4名が既に本場の舞台に立っている。 それが伝わって、今年は180名の応募者が殺到したというわけ。

 大事なのは、特権がそう甘くはないということ。 イタリアから招聘した公式審査員は、いずれもトップ歌劇場の芸術監督や音楽監督であり、彼らの厳しい審査を通ってはじめて合格者名簿に入れられる。

 そこから最終面接が待っている。 彼ら審査員も参加したうえで、イタリアでの挑戦に耐えられるかどうかの人物評価となる。 昨年は、明るくて良い意味でふてぶてしい人間を8名合格させたが、大成功だった。

 おもしろいのは、イタリアから招聘した審査員それぞれが、埋もれている才能の発掘発見に異常なまでの熱意を持っていることだ。 オーディションなのに、これはと思う歌手を見つけるや、もう個人レッスンみたいなもの。

 歌手たちが技術的なアドバイスにどれだけ修正能力を発揮できるか、どれだけ変われるかを真剣にチェックする。 その上で、自分とこの歌劇場へ連れて行こうとするわけだ。

 これも、文化なんだろうね。

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 ★注意 上記の内容は澤上篤人個人の見解であり、さわかみ投信株式会社の考えおよび「さわかみファンド」の運用を説明しているものではありません。 個人の真意を尊重するため、原則、文章の修正はせずにブログを公開しております。