昔から、木を見て森を見ずという表現で、投資家に大局観を失わないよう諫めている。
どの投資家もマーケットに密着して投資収益を追いかけていると、目先の価格動向にシャカリキとなってしまう。
すると、どうしても森全体の大きな変化を見落としがちとなる。 それが、木を見て森を見ずである。
たとえてみると、強大な台風が迫っているのに、海辺での磯遊びや川べりでのキャンプに興じているようなもの。
かりに台風の襲来をニュースなどで聴いていても、どこか遠くに上陸するだろうぐらいの気楽さでいる。
海べりや山の天候は、あっという間に変化する。 気がついたら、台風の猛威の真っただ中で生命の危険にさらされる。
そんな状況が、世界の金融マーケットに押し迫っている。 なのに、投資家は目先のディーリング運用から抜け出そうとしない。
どういうことか? 世界的なインフレ圧力を受けて、米国中心に金利が上昇してきている。
米国の政策金利は、すでに3%も引き上げられた。 10年物国債利回りで代表される長期金利は4%をつけた。
この現実だけでも、強大な台風が身近に迫っていると、どの投資家も厳重な防衛体制を固めてしかるべきである。
考えたらわかる。 しばらく前まで、ゼロ金利やマイナス金利が長く続いていた。
世界中の金融機関や機関投資家は、いつでも運用利回りを稼ぐのを仕事としている。
彼らは、ゼロ金利やマイナス金利という状況下でも、なんとか利回りを稼ぎたいと必死である。
そういったニーズを踏まえて、世界の投資銀行や大手証券会社が大いに腕を振るった。
ゼロ金利下でも、なんとか利回りを叩きだせるような運用商品を開発設計しては、世界中に売り込んだ。
オプションや先物を活用するだけでは到底間に合わず、金融技術を駆使して複雑な運用商品を編み出していった。
そのように開発販売された運用商品を、世界の金融機関や機関投資家は山ほど抱え込んでいるのだ。
ところが、いまや3%も金利が上昇している。 ゼロ金利時に設計開発された運用商品は、どれもこれもとんでもない状況変化に直面してしまった。
ゼロ金利時の設計土台が崩れ去ったわけだから、期待した運用利回りも怪しくなってきた。
それどころか、普通に長期国債を購入するだけでも、年3.6%以上にまわる。
かくして、ゼロ金利時に大量に出回った利回り商品のほとんどが、いまや投げ売りのリスクに晒されているわけだ。
それだけを考えても、とんでもなく強大な台風が身近に迫っていると警戒して当然であろう。
利回り運用商品の崩れは、世界の金融マーケットに激震を走らせることになろう。