今朝の日経新聞には驚いた。 日本の金融大手がオランダの誇りともいえる資産運用会社である、ロベコを買収する方向にあるというのだ。 ロべコといっても、何なのという人がほとんどだろう。
記事では、企業や公的年金などの資金をおよそ23兆円ほど運用しているとあるように、ロべコは世界有数の資産運用会社である。 そのロべコが2001年にオランダの大手銀行ラボバンクの完全子会社となっていて、そのラボバンクの経営不振でさらに身売りの対象となっているという。 これには、驚く以上に複雑な気持ちでいっぱいである。
かつて、そう1970年代そして80年代半ばごろまでは、ロべコといえば資産運用ブティックの代表的な成功例であった。 あの当時もいまも、顧客の多くが企業年金や公的年金であるのは変わらないようだ。 ところが、ロべコそのものが運用ブティックから単なる運用マシーンに変わってしまっていたのだ。
資産運用ビジネスは、運用の方向性や哲学と実績でもって、その存在を世に問うのが基本である。 したがって、やたら滅茶に運用資金をかき集めるのは邪道もいいところ。 運用資金は実績が積み上がるとともに自然と集まってくるはずといった経営姿勢を頑として崩さない。 それが故に、運用能力の向上には最大限の力を集中させる。 これが、運用ブティックといわれる所以である。
ところが、70年代後半からの年金運用本格化に象徴される世界的な機関化現象の進展で、運用ビジネスが徐々に変質していったのだ。 どういうことか? ”運用ビジネスは、がつがつ資金を集めるものではない” とする運用野郎の誇りはどこへやら、とにかく資金集めのマーケティングだの道を歩み始めた。 それが一挙に激化したのが80年代である。
なにしろ、年金という毎年の積み立てで膨れ上がる一途の巨大資金プールが運用を求めているのだ。 このビジネスチャンスに指を食わえている理由はないと、世界中の運用会社が年金マネー獲得のマーケティングにのめり込んでいった。
より多くの運用資金を擁しているというのは、運用成績が良いからだろうというのが世間一般の受け取り方である。 運用各社はますますマーケティングに力を入れるようになっていった。 その流れに乗って、世界の大手金融会社は資本力を背景に弱小の運用会社を次々と配下に収めていった。
長年の実績で名を轟かせてきた運用ブティックを配下に収めて、その名声をマーケティングに最大限利用するのだ。 大手金融機関にとっては、ある程度の出資で巨額の資金集めができるわけだから、うまみのある投資となっていった。
一方、大手資本の傘下に入った運用ブティックたちには、厳しい現実が待っていた。 マーケティング部隊がダボハゼのように運用資金を集めてくるが、どんどん膨れ上がる資金をじっくり丁寧に運用するなんて不可能である。 いつしか、コンピュータを駆使した機械的な運用を頼るようになっていった。
コンピュータや機械を多用する運用となってくると、長年の経験も哲学も大して意味を持たない。 それどころか、どの運用会社も似たり寄ったりの運用で、同じような成績に収れんしていった。 もうそうなると、運用ブティックも何もあったものではない。 結果として、世界の運用ビジネスが ”マーケティングという集金マシーンに追いまくられる運用サービス” といった位置づけが定着していった。
投資本来の姿からどんどんかけ離れていったなかで、かつての名門が身売りを繰り返すなんて、どこか狂っている。 この辺りは、これからも繰り返し説明するが、われわれ長期投資家は運用本来の姿をとにかく追求していくだけである。
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