いろいろな投資指標を使って、現在の株価が割安とか割高とかを論じる投資家が多い。 セルサイドつまり証券会社の営業マンも、顧客に対して買いを進める有力な武器として、「これこれの数値をみれば、この株は割安ですよ」というのが殺し文句となっている。
そういった指標の代表格が、PER (株価収益率)というものである。 1960年代の半ばごろから普及しだした成長株理論の骨格をなすもので、その後も現在に至るまでずっと活用されている。
PER とは、株価を一株当たりの利益額(EPS)で割った数値を指す。 よく、PER が12倍だから割安だとか、18倍にまで買われているから割高とかいわれる、まさにあれだ。
そうはいうものの、12倍だから割安という根拠はどこにもない。 また、バブル化した熱狂相場では、PER の60倍90倍でも「まだ割安だ」といって投資家は買いまくる。
大体からして、PER の本当の意味というか使い方を知っている人は、ほとんどいない。 あれは、「この企業の収益力からすると、現在の株価での投下資本を回収するのに、何年かかるか。 それだけのリスクを取れるだろうか」を判断する尺度なのだ。
成長株理論が普及しだした1960年代は、米国経済が最も輝いていた頃である。 いわゆる黄金の60年代で、3%後半の物価上昇と4%ちょっとの成長率で、米国経済は健全そのものの拡大発展を続けていた。
その当時であっても、PER 3倍なら3年で投下資本を回収できるから、思い切って投資リスクをとってもいいだろう。 しかし、PER 4倍ともなると4年先のことだから、不確定要因もそれだけ多くなる。 果たして、4年先も現在の収益力が続くかだろうか、そういって投資判断を躊躇したものだ。
もちろん、その企業のEPS が年20%ぐらいで伸びていくのであれば、4年でEPS が2倍となるから投下資本の回収もそれだけ早くなる。 であるならば、PER 5倍ぎりぎり6倍までは投資リスクをとってもいいかなという判断もできる。 これが成長株理論である。
つまり、投資リスクを取るかどうしようかということであって、割安とか割高といった表現はしなかった。 それが、いつの間にかPER 12倍が割安とかいわれるようになった。
12年で投下資本を回収ともなると、割安どころの話では収まらない。 その間には、たとえば米国大統領選挙が3回行われるなわけで、実際12年の間に何が起こるか知れたものではない。
また、ある企業のEPS が年20%で10年も12年も伸び続けると予想するのは、どうみても大胆に過ぎる。 ということは、PER が10倍でも12倍でも投資リスクは相当に大きいと考えるべきである。
そう、割安とか割高とかは気休め程度のものにすぎない。 まあ、せいぜいいくつかの企業の収益力に対する株価水準を比較検討する時に便利ぐらいなものだ。
では、長期投資家はどう投資判断すればいいのか? 次回、その辺りを書いてみようと思う。