信託報酬の引き下げ競争

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来年から新NISAの制度も始まるということで、投信各社は信託報酬の引き下げ競争を激化させている。

多くの投信ファンドがコンピュータ運用となっていることもあって、運用コストはそうかからない。

だからということで、信託報酬率を年0.01%とか、さらに低い水準を提示しているわけだ。

これでもかこれでもかと信託報酬率の引き下げ競争を繰り広げては、より多くの販売につなげようとしているのだ。

どの投信各社も販売資料で、信託報酬を安くすれば、それだけ投資家顧客にプラスとなると強調している。

この信託報酬を下げさえすればの考え方が、日本では一般的になっている。

それが、どうにも解せないのだ。 投信の構造からして、さしたる利点でもないのだが。

そう、投信の信託報酬は、定められた報酬率に沿って、毎日の純資産額から控除されている。

信託報酬控除後の純資産額を、投信顧客が保有する総口数で割ったものが、日々の基準価額として発表される。

つまり、投信の基準価額には、すでに信託報酬というコストが織り込まれているのだ。

その基準価額が、投資家顧客の期待に沿った伸びを示していてくれれば、もう十分のはず。

基準価額の伸びには運用能力が大きく反映されるわけで、信託報酬の多寡など知れている。

極端な話、信託報酬率が3%でも基準価額が5%伸びを示していれば、なんの問題もない。

投資家顧客からすると、年5%の財産づくりができているわけで、その投信ファンドを買っていて良かったとなる。

逆いうと、いくら信託報酬の率が低くても、基準価額の伸びが冴えないなら、投資家顧客にとって嬉しくはない。

ということは、投信各社が信託報酬の引き下げ競争に身をやつすよりも、運用成績を上げる努力をすべきなのだ。

なのに、信託報酬の引き下げでもって、自社ファンドの優位性を投資家顧客に訴えるなんて本末転倒もいいところ。

どの投信ファンドも、基準価額の伸びでももって堂々と勝負しろといいたい。

大体からして、信託報酬率をどんどん下げていくと、いずれ投信会社の経営が立ちいかなくなる。

投信業界を挙げて、信託報酬率の引き下げ競争を展開していった挙げ句に、経営破綻など笑い話にもならない。

まともに運用業務を続け、きちんと運用責任を果たし続けていくことこそが、投信会社の責任である。

そのためには、どの投信会社も健全なる経営を心掛けるのが大前提となる。

なのに、信託報酬の引き下げ競争に明け暮れるのは、不健全そのものである。