昔から、経済の教科書などに出てくるのが不況の効用という表現である。
不況時には消費が落ち込み、所得も上がらなくなるので、一般的には歓迎されない。
しかし、不況時ならではのプラス面もあって、案外と大事な働きをしてくれる。
それが、資本や労働力の移転である。 不況時には、適者生存の大原則に沿って脱落していく企業が多発する。
そういった脱落企業からは、たとえば大量の失業が発生する。
仕事を失った人たちは、食っていくために次の職場を探す努力をせざるを得ない。
結果として、より元気な企業へと労働力が移っていく、つまり労働力の再分配が行われるわけだ。
ということは、ずっと社会問題となっている人手不足の問題も、自然と解消されることになる。
ところが、この30年間の日本は、なにがなんでも銀行や企業を潰させないとする政策を推し進めてきた。
それが、税金を払うどころか税金でもって生きているようなゾンビ企業の大量生産と跋扈を許している。
逆に、活力にあふれる企業が労働力不足に嘆く状況を招いている。
どちらも、日本経済の健全なる発展に大きなブレーキとなってきた。
それもこれも、銀行や企業を潰させない政策でもって、不況の効用を死語にさせてきたからだ。
自由競争経済の一番の強みは、優勝劣敗と適者生存の原理が、ごく自然に働いてくれるところにある。
それが景気の大きなうねりをつくりだして、不況の効用をも発揮させるわけだ。
ところが、この30年余というもの、日本はゼロ金利や資金の大量バラ撒きでもって、経済活動を甘やかし続けた。
いってみれば、ずっと自由競争をないがしろにしてきたわけだ。
それが日本経済をどんどんダラシなくさせ、なおかつ国民をなんでも国頼みのゆでガエル状態に甘えさせてきた。
その一方で、国の借金はどんどん膨らみ、GDPの2倍を超すまでに至っている。
なにもいいことはなかった。 もう、そろそろ経済の基本である自助自立を国民にも企業にも促すべきであろう。