長期投資の良さと、本当の凄み

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われわれは日本でずっと長期投資を啓蒙してきたし、その良さも抜群の実績でもって世に知らしめてきた。

直販の投信各社が注目を浴びたり、積立てNISAという制度が始まったこともあり、長期投資に対する社会の関心も、それなりに高まってきている。 結構なことである。

ただ、本当の意味で長期投資の凄さが日本社会に浸透していくのはまだこれからといっておこう。

まず間違いなく、次の10年15年で、そのあたりが嫌というほど明確になってくる。 それこそ凄みをもって、長期投資の良さが社会の認識となっていくのだ。

どういうことか? 世界が超金融緩和を是正し、金利の正常化を目指している。 そうしないと、次のバブルを醸成し、インフレに火をつけかねないからだ。

ゼロ金利やマイナス金利を脱し、経済活動にある程度の金利が課される状態に戻していくのは、きわめて健全な経済政策の方向である。

しかし、その過程で世界の金融マーケットは地殻変動をきたす。 もちろん、社会に大混乱を招くような拙速な政策は避けつつも、金融や金利の正常化は進められよう。

だから、地殻変動と書いたのだ。 気がついたら、金融マーケットでのプレーヤーの顔触れが一変してしまっていることになる。

先ず、ダブダブの金融緩和でマネーゲームを演じていた連中のほとんどが、姿を消していく。

金利コストがゼロ同然で、いくらでも資金をかき集められた状況がなくなっていけば、彼らは干上がって野たれ死にとなる。

当然のことながら、1秒間に1000回を超す高速売買も、金利コストやレバレッジのコストが上がることで採算が取れなくなる。

また、金利上昇は債券価格の下落、すなわち債券市場からの資金流出を招く。 年金などの債券運用は、巨額の評価損を抱えることになる。

同時に、日本のように国家予算の40%前後を国債発行で賄っている国の財政は、金利コストの圧迫で窮地に陥る。

一方、マイナス金利を脱し、そこそこの金利がつくようになれば、銀行経営は一息つけると考えるのも危険である。

一息つく前に、金利上昇が融資先の企業経営を圧迫し、個人の住宅ローン破産が現実問題となってくる。

それが銀行経営を揺さぶり、預金不安も台頭してくる。 そうなってくると、ペイオフ制度への不安も現実となる。

およそ700兆円ある民間金融機関への預金に対し、1000万円までの元金と利息は保証しようというのがペイオフ制度である。

しかし、保障するのは預金保険機構というところであって、そこの資金プールは3兆円ほどでしかない。

そんな資金プールで、700兆円の預金を保証なんて絵空事である。 預金解約が殺到することも、十分にあり得る。

その横で、国債発行残高の40%強を抱え、株式ETFを26兆円も買い込んでいる日銀は、財務悪化で信用不安がくすぶりかねない。

これらが地殻変動の大まかなところであり、10年以内にはほとんどが現実問題となっているだろう。

そうなるにつれ、もう否が応でも長期投資の凄みが表面化することになる。 われわれは、上に書いたことのすべてを読み込んで、それらのリスクをすべて削ぎ落とした運用をしているのだ。

われわれは、なにごともなかったかのように平然と長期投資を続けている。 その横で、多くの人たちが右往左往し、財産と思っていたものを失っていくのだ。

大変な地殻変動である。 しかし、よくよく考えれば、それは90年代からの金融バブルが最終的に整理されるだけのこと。

そして、まともな経済活動や長期投資に再び陽があたるだけのことなのだ。 正常化とは、そういうことだ。