今年から少額投資非課税制度( NISA )口座の制度が始まった。 すでに600万を超す個人投資口座が設定され、順調な滑り出しとなっている。
とはいえ、当初の想定とは違った方向で NISA は普及しつつある。 その最たるものは、NISA を利用している個人の65%近くが60歳以上の高齢層だということ。
その大半が株式投資に手慣れた人たちで、せっかくの非課税措置を活用しない手はないというノリである。 年間100万円まで、それも5年間という縛りはあるものの、節税になるなら何でも歓迎というわけだ。
ここへ来て、一層の NISA 普及を視野に年間200万円までとか240万円までといった拡大案も出ている。 未成年の口座開設に道を開くことも検討されているようだ。
ちょっと違う。 どうも非課税ばかりが前面に出過ぎて、一般生活者の長期的な資産形成の器といった本来の概念が、どこかへ行ってしまっている。
非課税非課税というから、非課税措置が有効な期間内に売っておこうとなる。 それは短中期売買を促進するだけのことであって、株式を長期保有して大きな資産形成を図るのとは違う方向である。
売って得た投資収益に税優遇措置が講じられるというところで収まってしまえば、これまでの証券減税と何も変わらない。 その結果が、個人金融資産のうち証券投資に回るのが8%~16%で、預貯金が50%~54%という比率が昔からまったく変わらないのだ。
国民の間に NISA の本来の意義が浸透しだせば、個人の預貯金偏重から株式投資への資金シフトがようやく恒常化し、日本経済の活性化に大きく貢献する。 たとえば、預貯金の2%が動くだけでも16兆円を超す。 昨年の外国人買いを大きく上回り、日本株市場はすごい活況となり、さらなる株式シフトを促すことになる。
ところが、このまま一時の非課税措置に矮小化されていけば、個人金融資産の8%から16%を占める短期投資を専らとする個人を喜ばすだけのことで終わってしまう。
どうすればいい? 短中期売買を煽りかねない NISA を改めて、長期投資減税に一本化する。 7年以上保有した株式や株式投信に関しては、無期限の売却益非課税とするのだ。
7年を超しさえすれば、いつ売っても売却益に課税されないとなれば、放っておいても長期保有が増える。 多くの個人が長期視野の株式投資に入っていけるし、若い世代の積立て投資も増えるだろう。 それらが長期の資産形成につながっていく。
税当局にとっても、非課税となるのは7年後以降のことで、それまでは現行の20%キャピタルゲイン税を課せる。 それよりも、7年の間に大量の預貯金マネーが株式市場に流入し、株価上昇による資産効果で経済活動は活発化し国の税収は大幅に増える。
長年の経験でいえることだが、個人マネーが長期視野で株式市場に流入すればするほど、個人の短期投資も活発化する。 税当局は長期投資減税で譲っても、短期売買からのキャピタルゲイン税で十分におつりがくる。
もっと大事なことがある。 長期投資減税で個人の預貯金マネーを1円でも多く株式シフトさせておくことで、いずれ到来するであろう国債暴落や長期金利の急上昇から疎開を果たせる。 おそらく金融界は大混乱に陥るだろうが、株式保有すなわち生産や供給の現場に財産を置いておくことで、より安全に荒波を乗り切ることができる。
その時は、さわかみファンドが先頭を切って大きな混乱を乗り切っていくことになろうが、要は資金を長期の株式投資にシフトしておくかどうかだ。 その意味で、長期投資減税は大きな役割を果たすことになるのだが。