人はしばしば、なにかをあまりにも大事にしすぎて、結局はその価値を堪能できずに終わってしまう。
果物なんかでも、ゆっくり美味しくいただこうと寝かせている間に、味が薄れてしまったなんて、よくある話。
それを、宝の持ち腐れという。 その典型が、個人の預貯金マネーだろう。
日本の個人や家計は手持ち現金とは別に、980兆円を超す資金を預貯金に預けたままとなっている。
そこから生まれる利子収入は、長いこと0.001%の超低金利が続いているから、たったの98億円にすぎない。
まったくをもって、お話にならない超低利回りである。 それでも、日本の個人や家計は預貯金にしがみついているわけだ。
将来が不安だから、元本が安全な貯蓄をしておこうとか言いながら、預貯金を抱え込んだままとなっている。
ところが、ここへきて日本の消費者物価が3%に乗せてきた。 30数年ぶりの高水準だとか。
世界的なインフレ圧力が続いており、そこへ円安も重なっているから、消費者物価はまだまだ上がる可能性が高い。
となると、物価上昇率を上回る利回りを期待できない預貯金などしていると、資産がどんどん目減りしていくのは避けられない。
ちなみに3%の物価上昇でも、預貯金に抱えている980兆円の購買力は単純計算ながら、年間で29兆円も消えていく勘定となる。
10年間で290兆円の資産減価だ。 つまり、980兆円の預貯金が690兆円の価値しかないということになってしまうのだ。
凄まじいまでの、資産価値の減価である。 まさに、宝の持ち腐れといえよう。
そのうち、インフレは収まるから、そう大騒ぎすることはない?
考え違いをしてはいけない。 インフレが収まるというのは、物価の上昇率が緩やかになるというだけのこと。
その前までに上がった物価水準は、ずっと続く。 よほどのデフレでないと、元の低水準に戻るわけではない。
ということは、預貯金の資産価値減価は既に始まっており、日本の個人や家計は要警戒もいいところなのだ。
おそらくだが、いま進行中のインフレは3%程度の物価上昇で収まることはないと思う。
預貯金で安全にと言っていた人たちが、インフレの嵐に巻き込まれて右往左往する姿を見るのは、なんとも忍びない。
金融緩和バブルに踊っていた人達が、暴落相場で右往左往するのとは違うが、資産価値を失うのは同じだ。
どちらにしても、われわれ本格派の長期投資家にとっては、そう慌てる必要はない。
それどころか、長期投資の真価を存分に発揮することになる。