いま経済産業省を主体に、一橋大学大学院教授の伊藤邦雄先生を座長とした政策提言レポート作成が進んでいる。 企業の持続的成長と投資家の役割をどう位置付けていくかを、産業界や機関投資家や学識経験者そして各界の専門家が侃侃諤諤の議論を展開し、大きな方向性を出そうとしている。
昨日の第11回会合では、米系の大手運用会社の現役ファンドマネジャーが招待され、彼のプレゼンをベースに議論は白熱化した。
彼は企業の持続的成長を買う長期投資で立派な運用成績を積み上げている。 その実績を踏まえた45分間のプレゼンは説得力があった。
企業と運用者との間では、長期の視野で経営と投資運用を同調させようとする価値観を、いくらでも共有できると熱く語った。 しかし、悩ましいのは彼のところに運用を委託してきているスポンサー、つまり投資家顧客である。
彼が追及する長期投資の運用哲学を良しとする顧客は一部で、多くはとにかく毎年の成績を出してくれと迫る。 年金などスポンサーの担当者といっても人の子、どうしても自分の担当責任に執着するから、毎年の成績を運用者に求めることになる。
これは、日本のみならず世界の運用ビジネスが陥っている構造的な問題である。 年金など運用を求めるところは、できるだけ高い成績を継続的にあげてくれという。 となると、本格的な長期投資よりも毎年の成績を計算づくで追いかける資金運用が前面に出てきてしまう。
そんな中、彼のところはともかくも長期投資を貫いているわけだ。 そこで、委員の一人として直販の投信を設定して個人の運用資金をベースとしたらと、彼に提案した。
これは彼へのアドバイスであると同時に、会議に出席している機関投資家や産業界への警告でもある。 機関投資といっても、元の資金の出し手は年金だろうとなんだろうと個人であり、そのほとんどが長期の財産づくりを期待してのものである。
ところが現実は、どの運用者も短期指向に追いやられて、いろいろな弊害が出てきている。 たとえば、企業に短期的な利益最大化を求めたりの風潮はどんどんひどくなっている。
そういうことなら、 元の資金の出し手である個人など一般生活者に直接、本格的な長期投資を訴える活動を広げる方が早い。 また、それが運用ビジネスの王道である。
自分の発言に彼は大きくうなづいて、会議後に近いうちゆっくり話そうということになった。 そしたら、ある高名な方があいさつに来られた。 会社を早期退職して、今後は個人の長期投資に関連する仕事に人生を燃やしたいという。
いいじゃない。 こういった感じで長期投資を志す人が増えていくのは。 面白がって、やりがいを感じてだ。