その昔、といっても30数年ほど前までのことだが、資産運用といえば長期投資と決まっていた。 それ以外のものは、Money Management すなわち資金運用とみなされていた。
資産運用と資金運用とは別物である。 資産運用は、お預かりした資金を10年20年といった時間軸で大きく増殖していこうとする。 当然のことながら、ゆったりと長期投資を進めるということになる。
一方、資金運用は銀行間での翌日渡し資金融通から株式のディーリングまで、短期で値ざやを稼ぐことを持って運用とする。 こちらは、常時マーケットに密着して、時々刻々と値ざや稼ぎの機会をとらえていく。 文字通り短期投資である。
したがって、運用ビジネスも本格的な長期投資を展開するか、短期の資金市場でディーリングを繰り返すかに、はっきりと分かれていた。 顧客の方も、それをしっかりと理解できていた。
ところが、この30数年間で世界の運用ビジネスは様変わりとなった。 本格的な長期投資家が絶滅危惧種的な存在となってきた横で、ヘッジファンドなど短期のディーリング運用がこの世の春を謳歌している。
その背景には、年金運用が世界最大の運用顧客に躍り出てきたことがある。 それとともに、70年代後半頃から「年金は大事な資金だから、運用状況や成績を毎年チェックしなければ」とする金科玉条が、世界の運用ビジネスを支配していった。
運用状況や成績を毎年チェックするとなると、とてもではないが10年20年の長期投資などお呼びでなくなる。 しかし世界最大の運用マネーとなってきた年金が、毎年の成績評価を要請するのだから、ほとんどの運用会社は短期投資になびいていくのは避けようがない。
たとえば、オランダに大きな年金運用会社があって、そこは年6%ぐらいの運用成績を目標に、どっしりとした長期投資で有名だった。 年金資金を預ける顧客の方も、年にならして6%ぐらいの成績を出してくれれば御の字と、実に大らかだった。
その運用会社も80年代の終わりごろから長年の運用哲学を捨て、短期の資金運用の方へシフトしてしまった。 こちらからすると、「えっ、あの運用会社が?」と、その変わり様に驚いたものだ。
いまや、運用ビジネスといえば「毎年の成績を如何に出していくかが問われる」、というのが常識となってしまっている。 その基準に沿って、世界のほとんどの運用会社はしのぎを削っている。
さて、ここからが今日の問題提起である。 年金を中心にして毎年の成績の最大化にしのぎを削るのはいいとして、一体どのくらいの成績を残しているだろうか?
上にあげたオランダの著名運用会社は、年6%ぐらいの成績を出せばののんびりペースで長期投資を続けて、結果的には年6~8%の実績を残していた。
その後、その会社は短期の資金運用に雪崩れ込んでいったが、さてどのくらいの成績を残しているのだろう。 はっきりしている事実は、身売りを重ねて会社の所有者が代わっていったことだ。
他の例も枚挙にいとまないが、多くの運用会社は短期の資金運用の世界で、出ては消えしているのが事実である。 それもあって、10年20年の時間軸でみてみるに、一体どのくらい資金運用で成果を上げたのか、正確にはつかみようがない。
はっきりしているのは、世界の運用ビジネスが年金中心にマーケティングのビジネスになっていること、それが故に短期の運用技術やディーリングテクニックが次々と開発されていることだ。
次々と新しい運用テクニックが開発されているので紛らわしいが、どの運用会社も長期的にみてそれほど大した成績を出してはいないと思う。 そもそも資金運用で、それほどの成績が出るはずもない。
そういった世界の運用業界の流れと、長期的な財産づくりの実績とは別物だということは、しっかりと認識しておこう。
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