この長期投資家日記で、これまで5回は指摘してきた要警戒事態が、いよいよ現実となってきた。 日本の家計貯蓄率がマイナスの1.3%となったことだ。
戦後復興から高度成長期を経て、日本の家計は世界がうらやむスピードで物質的な豊かさと金融資産の蓄積とを実現させてきた。 カラー TV やビデオ・テープレコーダーあるいはオーディオ機器といった家電需要が爆発していた1973年には、なんと家計貯蓄率は23%という高率を記録した。
すさまじいまでの消費需要を吸収したうえで、なお20%を超す高水準の貯蓄率となったのは、それだけ家計所得の伸びが大きかったからだ。 経済の高度成長で個人の給与やボーナス所得がどんどん伸びていった横で、国の税収も潤沢だったのがその背景にある。
家計貯蓄率とは? 給与やボーナス収入に年金受取額や預貯金の利子収入などを合算した家計所得から、税金や社会保障費を差し引いた残りを可処分所得といって、個人や家計が自由にできるお金である。
そこから、生活消費や家電など耐久消費財の購入、さらには教育積立あるいは住宅ロ-ンの返済にまわした残り、つまり余った部分を年間の貯蓄額という。
年間の貯蓄額の可処分所得に対する比率を家計貯蓄率というが、1990年のバブル崩壊時でも15%あった。 その後どんどん下がっていき、ついにマイナス圏へ突入してきたのだ。
これは要警戒である。 なにしろ家計所得は今後それほど大きな伸びは期待できない。 よほど経済成長率が高まらない限り、日本全体でみると給与やボーナス収入は減っていく方向にある。 団塊の世代がほとんど現役引退し年金生活に入ったからだ。
一方、税金や社会保障費は今後も増加の一途である。 経済の低成長で国の税収が伸び悩む横で、少子高齢化の進展で年金や医療費に対する国庫負担はどんどん増えているのだから、もうどうにもならない。
この先どうなるのか? 家計貯蓄率がマイナス圏に入って、それが加速しようとしているのだ。 もはや、貯蓄を食いつぶして生活水準を維持するしかない。 あるいは、多くの高齢者がそうであるように、老後が不安とかで(?)必死に預貯金を抱え込んだまま、生活水準を落としていくかだ。
こういった事態を予見してきたからこそ、ずっと本格的な長期投資を提唱し、さわかみファンドを育ててきた。 家計貯蓄率がマイナス圏に突入しようがしまいが、しっかり長期投資していれば、いくらだって生活防衛できる。
現に、この15年4カ月間をならすと、さわかみファンドは年4.7%の財産づくりをお手伝いしてきた。 デフレ経済下で、年4.7%の財産増殖は文句ない成績だろう。 預貯金の利子が年0.02%でしかないし、長期国債利回りが年0.4%以下なのと比べても、はるかに上を行っている。
これだけの実績を上げているのに、まだ12万人弱のファンド仲間としか一緒に闘っていないのは、残念至極である。 しかしながら、家計貯蓄率がマイナス圏に入ってきた以上、さわかみファンドの実績と存在感に対する社会認識は否応なしに高まっていくのだろう。