超低金利政策の功罪

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 日本は超低金利政策に舵を切って、20年経った。 海外といっても先進国の超金融緩和は、まだ3年から4年といったところ。 一般的には、世界も金融バブル崩壊を受けて日本と同じ道をたどっているといわれている。 つまり、日本のようなデフレ現象は避けられないというわけだ。 

 表面的な現象だけを見ると、先進国もデフレへの道を辿るといいたくなるのだろうが、大事な視点が欠けている。 すくなくとも、米国経済はまったく違った展開となっていくだろう。 超低金利政策が効いてきて、どこかで経済活動は大きく動き出すはず。

 どこが違うのか? 日本では個人の預貯金残高が790兆円と、国内総生産 (GDP) の1.7倍に達する。 そんな国で超低金利政策を導入すると、個人消費が落ち込んで経済活動が失速するのは必至となる。 

 790兆円の預貯金残高というと、平常の金利水準3%から4%なら、家計は税引き後で20兆円から25兆円の利子収入が得られるはず。 その半分を消費にまわすとすると、日本経済を2%から2.6%成長させることになる。 プラスして、預貯金の利子に課す源泉税20%で、国は4兆7000億円から6兆3000億円の税収を得ることになる。

 ところが、現状の利子は年0.02%前後だから、家計は1264億円ほどの利子収入しか得られない。 国庫へは、たったの316億円だ。 家計や国庫にとっては、まったく富を生んでいない。 これが、日本のデフレ現象の大きな要因である。

 一方、米国では個人の預金は GDP の30%ちょっとでしかない。 超低金利政策を導入しても、家計の利子所得に対するしわ寄せは、大まかに言って日本の5分の1とか6分の1に過ぎない。

 それどころか、米国では個人金融資産の32.6%が株式勘定となっているので、超低金利政策が大きなプラス効果をもたらす。 どういうことかというと、史上最低水準の金利と未曾有の金融緩和政策は、いずれ時間の問題で米国の産業活動を活発化させる。 それを先取りするかのように株価は上昇軌道に入っていくから、家計の株式保有にとってもプラスとなる。

 もちろん、超金融緩和の影響でインフレ気味となってきても、米国の家計における債券保有は9%でしかないから、それほどマイナスとはならない。 株価も中長期的にはインフレに乗っていくので、資産形成に悪影響はない。

 そう、日本の超低金利政策は銀行など金融機関や一部の企業を利するだけで、経済全体にとってはマイナスの方が大きい。 一方、米国では教科書通りの効果が期待できる。 この違いは決定的である。 どうして、このことにもっともっと議論が向かわないのだろう?

 やるべきことは? 一刻も早く超低金利政策を止めることだ。 あるいは、日本の国民が年0.02%しか富を生まない預貯金に790兆円も寝かすのではなく、その10%でも20%でも株式投資にまわすことだ。 どちらも、日本経済にプラスとなる。 それで嬉しいのは、われわれ国民である。

 

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