かれこれ45年近くにわたって運用ビジネスに携わってきたが、その間に機関投資家運用のあり様もあるべき姿も、ずいぶんと変わってしまった。
なかでも、二つの変化が著しい。 ひとつは、投資運用から資金運用へと大きくシフトしてしまった点だ。 もうひとつは、運用ビジネスからマーケティングビジネスへの変容だ。
そのどちらにも、年金という巨大運用マネーの台頭が決定的な影響を及ぼしている。 両者を合わせて、どのように変わってしまったか見ていこう。
1960年代後半から先進国中心に年金制度の整備が進んだ。 それを受けて70年代に入って、年金資金の積立てが加速的に進みだした。
すさまじい勢いで膨れ上がっていく年金の資金プールをみて、世界の運用業界は色めき立った。 それ以前は、2千万ドルとか5千万ドルとかいった資金を預かって運用していたものが、あっという間に億ドル単位の運用資金を獲得しようというのが世界の運用ビジネスの常識になっていった。
その運用も、中長期視野でていねいなポートフォリオ運用をしていたブティック型から、億ドル10億ドル単位の巨額資金をどう動かすかに力点が移っていった。
折しも、コンピュータが登場し始めていたし、その後はパソコンが急速に普及していったこともあって、機械的な運用が一気に台頭してきた。 その流れの一つが、インデックス運用である。
そのうち、年金サイドや運用業界で強く意識されだしたのが、年金は大事な資金だから慎重かつ確実な運用を心掛けるべしという考え方。
すなわち、各担当者の運用状況や成績を毎年しっかりチェックしようということだ。 5年10年たって、お粗末な運用をしていたでは手遅れだから、毎年の成績で運用者の選別淘汰を促そうというのが金科玉条のようになっていった。
そうなってくると、まともな長期投資なんてやっていられない。 年金サイドの方が毎年の成績で追い立ててくるから、運用サイドはどんどん資金運用の世界へのめり込んでいくことになる。
毎年の成績を追いかけていてはまともな投資運用などできないと、本質論を語ったところで詮無きこと。 それでは他の運用会社に頼むだけと、年金資金は去っていく。 年金資金のような巨大ビジネスを失っては飯の食い上げということで、世界中ほとんどの運用会社が資金運用になびいていった。
資金運用はマネーマネジメントともいって、短期の資金ころがしで運用益を積み上げていって、年間の成績評価に応えようとする。 そこには、相場変動に瞬間対応して損失を最小限にするとか、1秒間に千回の売買を繰り返すといった高速売買のような運用テクニックが大いに幅を利かす。
一方で、3年5年ぐらいじっくり仕込んで大きな投資リターンを狙うといった、投資運用本来の姿はみるみるマイナーとなっていった。
その横で、運用会社においても年金資金を獲得してくるマーケッティング部門が発言力を高め、経営サイドもどれだけ運用資金を増やしたかの評価を重視するようになった。 運用のマーケティングビジネス化だ。
ざっとこんな具合に変容していったが、それが本当に良いことなのかどうかは別である。 自分など、筋金入りの長期投資家からみれば絶対に組したくない流れである。
第一、そんな資金運用やマーケティング主体では、短期はともかく長期でまともな成績など残せっこない。 さわかみファンドの15年10カ月の実績と比べてみれば、一目瞭然だろう。