新聞などで時折みられるのに、市場抑圧という表現がある。
最近だと、日銀が10年物国債の流通利回りの上下変動幅を0.5%以下に抑える方針を発表した。
これまでは、0.25%以下の変動幅に抑えてきたのを、0.5%幅にまで拡大したのだ。
このように、本来なら自由自在で動くはずの価格や金利の変動を、政策など力まかせで抑え込む。
それを市場抑圧という。 本来の役割を自由競争経済であれば、その中心となるマーケットでは価格や金利が自由自在に動くはず。
ところが、国や日銀などが政策目的で価格や金利をコントロールしようとすると、マーケットでの自由自在なる価格形成機能が失われる。
となると、マーケットが発信する価格や金利に対し、信頼感というものが持てなくなってしまう。
それでもって、経済活動を営めと言われても、一体なにを頼りに売買や価格の交渉ができるのか?
このあたり、根源的な問題である。 実は、ずっと続いてきたゼロ金利政策は市場抑圧の典型なのだ。
金融緩和政策で大量に資金供給するのは、マーケットでの需要と供給に直結し、それなりの価格変動をもたらす。
その価格変動に対し、どの参加者も次なる経済行動を考えればいいだけのこと。
一方、なにがなんでもゼロ金利にもっていくというのは、絶対におかしい。
それは人為的な価格操作であって、マーケット機能をないがしろにし、経済活動を歪めてしまう。
このあたりを無視してきたのが、この32年間の日本であり、リーマンショック以降の世界である。
で、その成果は? どちらも、せいぜい株価はじめ金融マーケットを異常なまでに拡大させただけではないのか。
その反面、日本ではゾンビ企業を大量生産しても、一向に経済の活性化にはつながっていない。
世界でも、一部の人々の金融所得は著増したものの、大多数の国民の低所得化がどんどん進んだ。
総じて、健全なる経済の拡大発展にはつながってはいない。 それが、市場抑圧の産物である。
別の角度からみると、市場抑圧で価格形成をゆがめた結果、まともな経済活動の芽を摘んできたことになる。
たしかに、ITとかデジタル化の分野では急速な発展があった。
しかし、世界全体でみると期待されたほどに経済成長していない。
途上国の大多数は成長に取り残されたままだし、新興国の多くでは「中進国の罠」に陥っている。
先進国でも、低所得化や中産階級の没落といった社会問題にずっと悩んでいる。
計画経済よりずっとマシなはずなのが、われわれの自由競争経済のはず。
だが、その根幹をなす自由自在なる価格形成機能を圧し潰しては、計画経済と似たり寄ったりの結果となるだけである。