普通、どこの証券会社の店頭でも株価ボードが設置されている。 まるで必需品のように。
ところが、徳島のある地場証券の店頭からは株価ボードが撤去されてしまった。
それも最近の話ではなく、3年ほど前のことだ。 もうウチには必要ないということで。
およそ10年ちょっと前にさかのぼる。 自分の長期投資セミナーに出席して、そこの社長は思い至った。
これまでのように手数料稼ぎ商売で生きていくのではなく、お客様の財産づくりに役立つ証券に脱皮しようと。
そこで、数年かけて投信の販売や債券営業は全面的にストップ。 長期の株式投資営業のみに、業務を絞り込んだ。
当然、それまでの顧客の大半や社員の多数は、会社の方針に猛反発した。
しかし、そこの社長は一切ひるむことなく、新方針を徹底させた。
その結果、顧客の大半が他の証券に移ってしまい、社員の半分以上が会社を去っていった。
以来、7年を超す赤字経営が続いているが、「投資家顧客の財産づくりに、長期の株式投資を」の路線は揺るがない。
長期の株式投資を勧めるとうたっている以上、時々刻々の株価変動を追いかけることなどはしない。
となると、株価ボードは無用である。 毎月高額の株価ボード使用料を払う必要もないで、撤去に至ったわけ。
ここからが大事なところ。 証券会社として長期の株式投資営業のみに切り替えた効果が出てきている。
その方針を良しとする投資家顧客が徐々に、そして尻上がりに増加拡大してきているのだ。
その証券会社では、顧客層が目先の儲けを狙う人たちから長期投資家へと、様変わりとなってきている。
面白いのは、「この高値圏だから慌てて買うのではなく、暴落を待って買うための準備をしましょう」に同意してくれる。
そして、多くの新規顧客が投資しようとする資金を、その証券に入金して、買い場をじっと待ってくれる。
入金された現金は、証券保管振替機構を通して、日証金信託銀行に信託財産として保管管理される。
だから、これまで預金しかやってこなかった人々も含め、新規の顧客は安心してその証券に資金を預けてくれるわけだ。
そういった「暴落を待って買うぞ」の投資家層がずいぶんと増えてきており、これからが楽しみである。
また、7年を超す赤字経営も、いずれは脱却できると、その証券会社の雰囲気はやたら明るい。
こういった、真に顧客とともに歩んでいこうとする証券など金融ビジネスが、どんどん増えていってくれるとありがたいのだが。