日銀が長期金利(10年物国債利回り)の変動幅を、0.25%から0.5%へ拡大した。
昨日はその発表の瞬間から、長期金利は0.4%台にまで急上昇した。
黒田総裁は会見の場で、利上げではない、金利引き締めではないと強調していたが、なんとも苦しい言い逃れである。
苦しい言い逃れ? そう、日銀や国の立場からすると、金融緩和政策の旗を降ろしたくない。
金利が上昇すると債券価格は下落し、国債の発行残高1065兆円超の50.3%を保有する日銀は、大きな含み損を抱え込むことになる。
また国も、借り換え債を含めて年間100兆円を超す国債を発行しているから、その金利コスト上昇に直面する。
そういった台所事情は表に出さず、金利上昇は中小企業の経営を圧迫するとか、景気を腰折れさせてしまうと言っているわけだ。
しかしながら、これまでの異次元とやらの金融緩和政策で、一体どんな成果を上げてきただろうか?
金利をゼロ同然にして、資金はいくらでも借りられるといった事業環境で、ゾンビ企業を大量生産しただけではないのか。
その証拠に、企業全般の生産性は上がらないは、日本経済の活力は一向に高まってこないはが、現実ではないのか。
そもそも金利は経済活動の原点であり起爆剤でもある。 その金利をゼロにしては、経済活動など動くわけがない。
逆に、企業経営を甘ったれたものにしてしまう。 そこへ、資金はいくらでも借りられるとなると、どんなヘナチョコ経営者でもやっていける。
一方、金利をゼロ同然にすれば、預貯金主体でやっている日本の家計は、それだけ利子所得を奪われてしまう。
ちなみに、個人金融資産のうち家計の預貯金残高は、983兆円にも上る。
その利子所得が、年0.001%の金利では、たったの9830億円でしかない。
これでは、個人消費は伸びないし、家計をますます防衛型に追い込んでしまう。
それが通常の3%とか4%の金利水準なら、29兆円とか39兆円の利子所得となる。
20%の源泉徴収後でも、23兆円とか31兆円となり、その半分が消費にまわるだけでも、2.3%とか3.1%の成長要因となってしまう。
すごい成長要因なのに、それを押しつぶして一体なんのための金融緩和だったのか?
経済学者たちはずっと金融緩和すれば経済は成長すると主張してきた。
その成果は金融マーケットを大発展させたぐらいなもので、大多数の国民の低所得化が進んだのは否定しようがない。
逆に、インフレ圧力という経済合理性からの反撃を受けて、世界は金利上昇に踏み込んでいる。
経済合理性からの反撃に一人抵抗してきた日銀も、いよいよ金利引き上げに追い込まれてきたわけだ。
人為による力まかせの経済や市場の支配から、経済合理性による普通の姿へ回帰していく第一歩なんだろう。